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分裂と同時発現

 城が広い。思った以上に広い。

 中央を探索する俺たちと一緒に来ていたドゥエルガルたちは、もう誰もいなくなってしまった。


「枝分かれしまくっていたからな……」

「廊下も部屋も多いよここ」


 分岐するたびに数人のドゥエルガルを送り込んでいったからな、人数が減るのも早かったが。


「まさに迷路、外から見た建物とは中の大きさが全然違う。空間がねじ曲がっているんだろうな」

「そうかもね」

「ルシル、思念伝達テレパスの状況はどうだ」

「定期的に連絡は来ているから、今の所はなにも起きていないみたい」


 あれだけの人数が単独行動を強いられている事だろう。それをルシルが中心となって情報をまとめている。

 思念伝達テレパスを使って連絡を取ってくれているんだ。


「連絡が取れなくなった奴はいるか?」


 ルシルの思念伝達テレパスは、ルシルが相手の意識を読む事で情報の伝達ができる。こちらから拾いに行く感じだ。


「まだ全員に連絡が取れ……あれ?」

「どうした」

「右側に分岐した部隊がいくつか……あ、左のも」

「応答しないのか」


 ルシルは思念伝達テレパスに集中しつつ、小さくうなずいた。


「あ、まだ意識が聴ける人がいた……うん、うん」


 ルシルが相手と意思の疎通を図る。状況把握のための情報が手に入るといいのだが。

 じっと見守っていると、ルシルが驚きの表情で宙を仰ぐ。


「そん……な。ゼロ!」

「なにがあった」


 俺はルシルの肩をつかむ。


「次々と意識が途絶えていくの。なにかに()()()()()()()()!」

「意識が、か!?」

「うん……」


 ドゥエルガルたちは消滅する事ができない。死した後に訪れる冥界の者として、消滅できればそれは彼らの望む事でもある。

 だがそれは冥界の伯爵ドラクールに魂を縛られている状態ではかなわない。


「とすると、頭部が完全に破壊されて意識が保てないとかか?」

「それとも違うの。もしそれだったら、欠けた部品でも部分的な思念は伝わるんだけど」

「今はそれがまったくない、と」

「うん」

「思念が邪魔をされているとか、なにか壁に隔てられているとかはないか」

「そういうのじゃないの。今までつながっていた対象がまったく見えなくなると言うか、探ってもそこに思考できる生命体、いえもう死んでいるから存在かな。それが感じられないの」

「そうか、飲み込まれていくという感覚が近いのであれば、なにかに取り込まれて思念が伝わらなくなった……というのも考えられそうだな」

「かもしれない……」


 俺とルシルが周りを警戒しながらも通信の取れる奴を探るものの、それが見つからない。

 空間がねじれ曲がっているという事も関係するのだろうか。


「ほうほう、悩んでいるようであるのう」


 俺たちの身体に緊張が走る。

 警戒していたはずなのに、奴の存在をこんな至近に来るまで気付けなかったとは。


「いつの間に……」

「ほう、儂かのう?」


 声のする方へと視線を向けると、そこには華美な装飾が付いた黒いマントの男がいた。

 マントの中からは優雅な衣装が見え、銀色の総髪を後ろに長し、燃え盛るような赤い目で俺たちをにらみつけている。

 視線が合う事でよく判ったが、端整な顔立ちは青年のように若々しく、それでいて青ざめた様子がいかにも冥界の者と思わせる風貌だ。


「だいぶ縮んだようだな、ドラクール」

「えっ!?」


 俺の言葉にルシルが驚く。

 確かにそれはそうだろうな。あの精霊界で見た巨人とは似ても似つかない若い男だ。それに孫娘がいる歳には思えない。


「儂がドラクールとよくぞ判ったな、小さき者よ」

「なんとなくだがな、見た目ではなくその奥に潜む影、力が同じように感じられたんでな」

「ほう、勇者ゼロは人を見る目があるようじゃて。くっくっく……」


 ドラクールは口角だけ少し上げて、くぐもった笑いを漏らす。

 その不気味さは気の弱い者であれば心臓が止まるのではないかと思うくらい、恐怖と威圧感を与える物だった。


「悪いなドラクール。俺に脅しは効かん。まがりなりにも勇者なんでな」

「ほほう、それは謙遜。儂の姿、声を聞いて小便を漏らさずにいられる度胸、なかなかのものぞ」


 褒めているのかけなしているのかいまいちよく判らないが。


「お前が、ドゥエルガルたちを縛り付けているんだな。城に入ったあいつらをどうした」

「そこまで気付いておったか。儂も少々考えを改めねばなるまいて」

「御託はいいあいつらはどこへやった」

「よかろう……見るがよい」


 ドラクールは黒マントをひるがえす。

 そのマントの内側を見た俺たちは、あまりのものに思わず身体を硬直させてしまった。

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