探索の始まり
死してなお消滅する事のできないドゥエルガルたちは、俺とルシルが治癒を施す事で復活というか、動ける身体に戻る事ができた。
そうして俺たちは城の門をくぐった所でこれからの行動を検討する。
俺とルシルは治癒のスキルを使った疲労を癒やすため壁にもたれかかり、深呼吸をした。その周りにはドゥエルガルの亡霊たちが、うすぼんやりとした光を放って漂っている。
もう執事だった灰は消えてなくなっていた。
「ありがとうございます。我らはバラバラだったとしても、時が経てばまたくっつくとは思うのですが」
「そうなのか?」
「はい、時間をかければ」
ドゥエルガルの一人がそんな事を言うので、俺は少し疲れから冗談を言ってしまう。
「だったら放置しておけばよかったかなあ」
「我ら数十人分の治癒は流石に大変だったかと思いますので」
「まあな。でも勝手にくっつくにはどれくらいかかりそうなんだ?」
「そうですね……数十年か数百年、くらいあれば十分でしょうか」
「おいっ!」
十分じゃない! 長過ぎだろう!
思わず俺はドゥエルガルの頭をひっぱたこうとしたが、俺の手はそいつの頭の部分を素通りしてしまって、叩くに叩けなかった。
「それじゃあこの戦いで役に立たないだろうが」
「はい、なので少しでも我らを癒やしてくださった恩義を返さねばと思っておりますので」
「ん……判った。一応治癒した意味はあったという事だな」
「ええ、おかげさまで」
「まあ手伝ってくれると俺たちも助かるよ。ドラクールを探し出さなくてはならないからな」
広い城だ。先程倒した執事のように相手から戦いを挑んできてくれると楽なんだが、どうやらそうもいかないらしい。
俺たちの目的とするドラクールは、気配すら感じないからどこに隠れているのかが判らないんだ。
「城の中は迷路のようになっているからな、少しでも探索のための人数が欲しい。分散して調べるにあたってはルシルの思念伝達に頼ってしまう事になるが」
「いいよ、私が中継するから」
「頼む」
ルシルはドゥエルガルの亡霊たちと思念伝達で情報連携を行い、状況を把握してもらう。敵に出会う事があれば即座に知る事ができる訳だ。
「俺とルシルは正面の階段を使って中央から探索する。お前たちは左右の廊下を進んでくれ。上や下の階段があったら各自分散して効率よく短時間で目的を果たしたい」
俺たちは隊を三つに分ける。俺とルシルが数名のドゥエルガルを連れて中央へ進む。残ったドゥエルガルたちを二つの部隊に分けてそれぞれ左右の廊下、部屋を探索させるのだ。
中央を進んだ所で道が分岐するようであれば、一緒についてきてくれている連中から分けて探索してもらう。
「何かあったらすぐに知らせてくれ。方向と高さだけでも判ればすぐに駆けつける」
「はい、判りました」
「無理をして戦おうとしなくていい。危険を感じたら退避してくれ。それとなるべく頭は守るように」
「どうしてですか?」
奴らは不思議そうな顔で俺を見た。不安定に揺らめく様子が、余計不安感を募らせる。
「ルシルと連絡が取れなくなるからな、頭が使えると連絡しやすくなる」
「ああ、そういう事ですか! はい、注意します」
まあ、実際には連絡が取れなくなったらそこで何かが起きたという事は把握できるんだがな。詳細な状況をつかむには、頭は使える状態であった方がなにかと都合がいい。
我ながら怖い事を考えているが、それも相手が亡霊で消える事ができない奴らだからなのかな。
「生きている連中にそんな事は頼めないよな」
「はい? なにか?」
俺のつぶやきにドゥエルガルが反応する。
「いや、なんでもないさ。さあ、冥界の伯爵を見つけに行こう!」
ちょっとごまかしながら、俺は探索開始の号令をかけた。