次なるステップへ
つままれた部分は割れた刀身の所。金属部分だ。
「物質に触れられるとはな、驚きだ」
「いえいえ、それ程でもございません。これくらいは執事たる者、当然の事でございます」
「だが知っているぞ。刀身の隙間、魔力で光る部分には流石のお前も触れたら怪我をするという事を」
俺の持っている超覚醒剣グラディエイトは、割れた剣の欠片を魔力でつなぎ合わせている物だ。だから欠けて継ぎ足されている部分は純粋に魔力で補われている。それを固着化させたのがこの剣。
冥界に住む霊体には、この魔力に触れるとその身体というか精神体が破壊されるのだ。
それは今まで戦ってきた中で見つけた法則。恐らくこいつも同じはず。
「さて……それはどうでしょう……ねぇ」
「どうした、先程までの余裕がなくなっているようだぞ」
執事の顔から笑みが消えた。
俺はしゃべりながらも剣に魔力を注ぎ込む。
それによりつなぎ合わせている部分だけではなく、刃全体に魔力の光りが宿るようになる。
「そのまま持ち続けているとその手が焼けて落ちるが、どうする?」
「くっ!」
執事ラムマトンは俺の剣を左の指だけでつかんだまま、身体をねじって俺に足払いをかけようと仕掛けてきた。
身体の重心が崩れてしまえばこちらのもの。
「ほらぁっ!」
俺は引き抜けないならと、剣を突き刺すように押し込んだ。ラムマトンの足が俺の足にかかる瞬間に、超加速走駆を発動させてそれを躱す。
勢いのついた俺の足はそのまま前方への圧力と変わる。
「ぐぐっ……」
ラムマトンは足払いをした事で体勢が崩れてしまい、そこへ俺が体重を乗せた状態で剣を突く。
剣先がラムマトンの片口に迫り、俺はそのまま押し込んでいった。
「がはっ!」
喉に突き刺さったラムマトンは口からドロドロとした透明な液体を吐き出す。
血、みたいな物だろうか。霊体の血はよく判らないが、噴き出した霊力かなにかかもしれない。
「変に仕掛けなければ、勝てたと思うか?」
うつろな目を向けるラムマトンは応えない。首を貫かれて応えられない状態だ。
「無理ね」
ルシルが突進してきて俺の背中に飛びかかる。その勢いが俺の力に加わった。
ラムマトンの指は俺の剣をつかんでいたが、その状態でラムマトンの首は胴から離れて宙に舞う。
「そうですか……わたくしはあなた方を排除できると思ったのですが」
「俺たちには通用しなかったな」
「なるほど、確かに私がつかんだのは物質。あなた方は肉体を持った状態でこの冥界に来られたのですね……そうか、生者にはわたくしも力及びませんでしたな……」
ラムマトンの身体は切り口から順に灰となって消えていく。
霊体の消え方はヘルハウンドどもと同じだ。
「ドラクール様……申し訳ござ……」
宙に飛んだラムマトンの首も灰になって消えてしまう。
「本来冥界の住人はこのように消えていくのだろうが」
「ドゥエルガルたちはあれだけ切り刻まれても消滅できないのね……」
「そうだな。だが少しは治してやらないとな」
ルシルは無言でうなずく。
「さて、これからが正念場だぞ」
俺は近くに転がっているドゥエルガルの部品に治癒をかけながらそうつぶやいた。
【後書きコーナー】
引き続きお読みくださりありがとうございます。
Twitterでも報告していますが、今回で700話、そして99万文字に到達しました!
これも読んでくれる皆さんがいてくれるからです。本当にありがとうございます!
本編終了後もまだまだ続いていますが、副題にもあるように次のステップへ向かって頑張ります。
応援よろしくお願いいたします!!