城を護る盾
慇懃無礼な態度ながらも、自信の表れなのだろうか。周りにヒクついている肉片、というか、ドゥエルガルたちの部品が転がる中で、執事のラムマトンは落ち着いたたたずまいで城の門を護っている。
「魂の解放が先か治癒が先かは判らないが、どうにかしてやるからそのままで待っててくれよな」
「は、はい……」
俺は剣を構えながらもバラバラになったドゥエルガルたちに話しかけた。
頭部が残っているというか、破壊されていない部品から返事がある。慣れたくはないが、少し慣れてしまった自分が怖い。
「誠に恐れ入りますが、お引き取りいただくわけには参りませんでしょうか」
ラムマトンはことさら馬鹿丁寧にお辞儀をする。
「主の宸襟を安んずる事が執事たる者の務めでございますれば、ご招待をしておりません皆様方をお通しするわけにも参らず、どうかここはお帰りいただきたく存じますが……」
鋭い刃物のような眼光が俺を刺す。
「嫌だ、と言ったら?」
「それは困りますねえ」
困ったような顔はせずに、ラムマトンは口先だけで返してきた。
「ではこうしよう。このドゥエルガルたちは俺と少し縁があってな、こいつらの魂を解放してもらいたい。冥界では死して裁きを受けた後は、次の器に生まれ変わりその罪を償うものと聞いた事がある」
「ほう、博識でございますな」
「茶化すな。それでだ、魂の再生ができないこいつらは、お前の主、ドラクールにその魂を捕らえられていると聞く」
「はて、いかがでしょうなあ。わたくしごときには及びもつかない事ですので、子細は判りかねます」
口角だけ上げて笑っているような顔を作っているが、目はちっとも笑っていない。
俺をにらみ殺そうとでも思っているかのような、強い殺意を持った目だ。
「そうか、ならば執事に聞いても埒が明かないともなれば、力尽くでも通させてもらうが」
「それは困りました。どこの誰ともしれぬお方を城へお通しするわけにも参りませんので」
なるほど、誰か判らないから、と言うか。ならば話してみよう。
「俺はゼロ・レイヌール。レイヌール勇王国の国王だった男だ」
「ほうほう、レイヌール勇王国の!」
「なんだ、冥界でも知っていたのか? まああれから俺の国でも死人が出ない訳もなし、数名は冥界へと行っている事だろうからな」
「いえいえ、思い違いでございました。そのような国はついぞ伺った事がございませんな」
この執事、のらりくらりと。面白い、そうであれば……。
「どこぞの馬の骨とも判らぬ御仁を、通すわけにはいきませんので。どうぞお引き取りを」
「断る! Rランクスキル発動、超加速走駆! 間合いをっ!!」
俺は一気に踏み込んで執事の首を剣で狙う。
間合いは致命傷を与えるに十分、勢いもあって執事は防御の構えを取らずにただ立っているだけ。
「覚悟っ!」
俺が振り下ろした剣。それを執事が左の親指と人差し指でつまんで止めた!
俺の剣を、ひとつまみで止めやがった!
「はぁ……」
執事がため息をつく。
「門……くぐってしまいましたね……」
スゥ……と執事の目が細くなる。つままれた剣は微動だにしなかった。
【後書きコーナー】
いつも応援ありがとうございます。
今回は命名の話。
突如出てきた執事ラムマトンですが、初めはセバスチャンとかにしようかなと思ったりもしました。
定番ですからね、執事と言えば。
でも、今回はやめてラムマトンという名前にしました。
由来とかは別にありません。
羊肉、若い羊肉はラム、大人の羊肉はマトン。それでラムマトン。
執事じゃなくて羊だよ、という話でした。
次回は第700話。お楽しみいただけると嬉しいです。