ヴラン城攻略戦
ヘルハウンドどもをあらかた片付けてしまうと、立っているのは俺たちとドゥエルガルの亡霊たちだけだった。
「これ以上中から出てくる奴もいないようだしな」
「ゼロ、行っちゃう?」
俺たちの周りに集まっている亡霊は、それだけでも結構な人数になっている。
こいつらが手に武器を携えて戦うものだから、小さいながらも戦闘集団になるわけだ。
「ああ、正面から突破してもいいだろうな」
俺の言葉を聞いて、亡霊たちもうめき声だか雄叫びだか判らないような声を出す。
「うおぉ!」
「あ、ああ!」
「行ってやるぜぇ……!!」
一応はこいつらなりに意気込んでいるのかもしれないがな、そもそもが亡霊だから生気がまるでない。
「あっしらはもう死んだ身、今の意識のままで精霊界へ戻る事はできやせん。ですが、魂の檻から抜け出して囚われの監獄から解放されれば……」
「生まれ変わる事ができるかもしれない?」
「そうでさ!」
「少なくとも今のまま永遠に拘束されるという苦しみからは解放される、か」
「その通りでさ!」
そうだな、もしこれが何十年、何百年と続くと思うと、俺だったら自分の意識を保っていられる自信がない。こいつらだってそうだろう。
それを解放できる機会があるなら。
「行くか!」
「おう!!」
俺たちが武器を振りかざしながらヴラン城の正門へと突き進む。
「おらぁ!」
ドゥエルガルの一人が氷のハンマーを門に叩き付ける。
派手な音が鳴ってハンマーが砕け散ったものの、門にもダメージが行っているようだ。
「次っ!」
「おうっ!!」
俺が氷を作りだし、鍛冶師のドゥエルガルがそれを武器に変えていく。
新しく作り出された武器を手にして、次から次へと門へ攻撃を加えると、さしもの頑丈な門もついにはきしみ、砕けた。
「よっしゃぁ!」
「いくぞぉ!」
勇んで駆け出すドゥエルガルたち。
だが、門を越えた所で何かの壁にぶち当たるようにして弾かれる。
「ぐわっ!」
「どうした!?」
倒れているドゥエルガルを俺が助ける事はできないが、隊列に隙間ができた事で、門の先のものが見えた。
そこには後ろ側の長い黒のコートに身を包んだ細身の老人が立っている。
「ようこそ、ヴラン城へお越し下さいました」
ロングコートの老人は、白髪の頭を下げ、右手を胸の前に寄せてうやうやしくお辞儀をした。
だがそこから感じられるのは、明らかな殺意。
「わたくしはヴラン城の執事を務めさせていただいております、ラムマトンと申します。以後、短いお時間ですがお見知りおきを」
お辞儀をしたまま首だけを上げて、俺たちににらみを利かせる。
その肌は抜けるように白く、目は燃え上がるように赤かった。
「やろう、やる気ですぜ!」
「いっちょ揉んでやりますよ!」
ドゥエルガルたちは亡霊ながら血気盛んに駆け出す。
「やめろ! あいつはただ者じゃないぞ!」
俺が止めようとするが、ドゥエルガルたちは聞く耳を持たない。
執事に群がったかと思うと、次の瞬間。
「ぐわっ!」
「ぎゃぁっ!!」
ドゥエルガルたちの身体は鋭い刃物で切り刻まれたかのようにバラバラになってしまった。
「い、いてぇ……」
「苦しい……」
それでも既に死んでいるドゥエルガルの亡霊たちは、バラバラになった身体を揺らしたり転がしたりしながら、集めようと必死になる。
必死もなにももう死んではいるんだが。
「これは酷い……」
「ゼロ……」
俺とルシル、残った数名のドゥエルガルたちは、戦闘態勢を整えながら執事との間合いを詰めていく。
執事の手には武器のような物はない。手を真っ直ぐ尖らせて手刀を作っているだけだ。
「先にあっしが!」
「よせ! もっと慎重に……」
だがドゥエルガルは果敢にも執事に向かっていき、それまでの奴と同じようにバラバラに刻まれてしまった。
「しかし、お前たちの特攻は無駄ではなかったぞ」
俺は分割された身体になったドゥエルガルたちに感謝する。
どうやらその執事は手袋をした状態の手刀で、亡霊たちを切り刻んだようだ。
「鋭利な手だな」
「恐れ入ります」
俺の軽口に、丁寧な礼を返す執事。
上品で落ち着いた風情であるだけに、それがかえって不気味さを増す事にもなっていた。
さて、こいつをどうしたもんかな……。