終わらない苦しみ
ヴラン城が俺の雷に貫かれてボロボロになっている。とはいえ。
「流石に石造りで要塞のように建てられているようだからな、打ち砕けても外皮だけのようだが」
「でもあそこ、壁に大きな穴が空いたよ」
外側にせり出した小部屋のような場所が崩れて屋内へつながる穴になっていた。
「んー……中から何か出てきていないか? 動物というか、犬?」
あれは正真正銘犬の姿をしている動物だな。犬顔とか犬耳とかコボルトみたいな者ではなくて、四肢を突っ張って瓦礫の中から飛び出してくる。
それも一匹や二匹じゃない。結構な数だ。
「ゼロ、ヘルハウンドだよあれ! 冥界にいる死を司る黒い犬! 獄殺犬とか言われる凶暴な奴!」
「ヘルハウンドか……」
俺たちを見る赤く燃えるような瞳が暗い中でもよく見える。
「あ、ひぃ……」
「逃げ……」
ドゥエルガルの亡霊たちは一斉にヘルハウンドから逃げようとするが、その緩慢な動きは獄殺犬の牙から逃れるには遅すぎた。
「あ……」
「ひゃぁ……」
犬たちに噛みつかれ、爪で引き裂かれているドゥエルガルたち。
「いたい、いたい……」
「魂がいたい……」
それでもドゥエルガルたちは噛みつかれた傷口から青白い光りをほとばしらせながら、致命傷程の傷を負っても消え去れず、動きを止めることもできずにうめいている。
「こいつら、死ねないのか……。いや、既に死んでいるのだからな、これ以上の終わりはない。その上で苦しみを負うのか……」
俺やルシルに襲いかかってくるヘルハウンドは俺の剣やルシルの爆炎で蹴散らすことはできるが、相手の数が多すぎてドゥエルガルたちを全員護るまでは手が回らない。
「いたい……」
「終わらせてくれ……」
「助けて……」
顔面をむさぼられ鼻がそげ落ち、眼球が飛び出してもドゥエルガルたちは死ぬこと、いや、活動を止めることが許されていない。
腕をもぎ取られ、内臓を引きずり出されても、死ぬよりも痛く苦しい感覚をその魂に刻み込むのだ。
「やめろっ! やめろぉっ!!」
俺は近くにいるヘルハウンドを倒すが、次から次へと城から出てくる。
「くっ、後悔しても仕方がないが……」
ドゥエルガルたちは退かせておいた方がよかったのか。それとも城を破壊せずに俺とルシルだけで侵入した方がよかったのか。
「仕方がないよゼロ、敵の戦力が判らないしこっちだって亡霊が戦闘なんて」
「それはそうなんだが……」
冥界に物理的な概念は適用されない。石や木の枝で霊体を叩いた所で効果はないだろう。
魔力をまとった武器だから、ヘルハウンドに効果がある。多分そんな所だ。
「だとすると……ドゥエルガル、誰か! 動ける者はいるか!!」
ドゥエルガルのいにしえのドワーフとも呼ばれた伝説の鍛冶師。
「あっしなら……」
俺の所へ這ってきたドゥエルガルは、両方の膝から下がヘルハウンドに食い千切られていたが、どうにか身体を這いずらせて俺の側にやってきた。
俺はそれでもすがりつこうとするヘルハウンドを超覚醒剣グラディエイトで一刀両断にした。
「お前にはこの状況を打開するための力を貸して欲しい」
「あっしに、できることでしたら」
ドゥエルガルの亡霊は、短くなった足を投げ出してどうにか座る態勢を取る。
俺は直接触れることはできないからな、助け起こすことはできないが襲ってくるヘルハウンドを払いのけることは可能だ。
「お前に頼みたい事がある」
俺はドゥエルガルに向かって手をかざしてスキルを発動させた。