幻影を破って攻城戦が始まる
ドゥエルガルの亡霊たちがヴラン城に案内をしてくれた。
俺たちの目の前には大きくそびえる石造りの豪勢なヴラン城。
「到着したねゼロ」
「ああ。なあルシル、もしかしたらこれって」
俺の中には冥界のルールとして思いついたことがある。
「ドゥエルガルたちがいたから、見つけられたんじゃないかな」
「え? うーん……どゆこと?」
俺も自分の考えに確信が持てないからの発言なのだが、それも再確認の意味も込めて。
「冥界という世界は、意識の強さが影響する……そんな感覚だ」
「意識の強さ……」
「ああ。さっきは俺が意識していなかったからこの城が見つけられなかった……いや、見えていなかったんだと思う」
「そうよね、こんなに苔むしたボロボロな館だから、私も気にしていなかった」
ん? 俺には石造りの荘厳な装飾を施された大きな城に見えるが。
「ルシル、ちょっと聴くがヴラン城ってどう見えている?」
「どうって、城って言うけどあれは館、屋敷くらい? 私たちの住んでいた家よりは確かに大きいけど、それでも城は大袈裟だと思うなあ。それにツタが絡まりまくって、周りは森も林も近くにないのに、なんか変な感じよね」
ルシルが見えている姿と俺が見ている姿が違うというのか。
「ルシル、俺が見ているヴラン城は石造りの大きな城だ。防壁もしっかりと整えられて、これは平城ながら防衛に向けて考えられている建物に見える。堀がない所は違和感があるけどな」
「えっ……!?」
ルシルは驚いた顔を俺に向ける。そして俺の顔とヴラン城を見比べるように首を動かす。
「えっ、えっ!? どういう事!?」
やはりな。
「おい、ドゥエルガルの!」
俺は周りをうろつくドゥエルガルの亡霊たちに声をかける。
「お、おお……」
「それはもういいっての。で、これってやっぱり」
「はい」
ドゥエルガルたちはかしこまって肩をすくめてしまう。
「認識と把握、意識の力か」
「はい……」
ルシルはドゥエルガルの返事を聴いて、また俺と城を見た。
「えっ!? あーっ!!」
「どうしたルシル」
「城……確かに城だ……。今急に、城、石造りの大きな城になった……」
「やはりな。どちらが正しかったのか、なぜこうなったのかは判らないが、ルシルには幻影が見えていた、いや見せられていたというべきか」
「幻影……?」
「ああ。きっと俺も前までだったらルシルと同じような苔むした館を見ていたかもしれない。もしくは別の姿に見えていたかもしれないな」
「それって……」
ルシルは俺の腕をつかむ。
「ああ、俺たちは幻影を見させられていた。俺は赤外線暗視があったからかな、物体の大まかな形と姿が、見える部分と熱量で感じる部分の両方で把握することができる。だから違う形、ずれている物があればそれを正そうとする力が無意識に出てくるのだろうが」
「私は赤外線暗視が使えないから、視覚だけで判断してしまった……」
「幻術とは、よくもまあ簡単な物を。まあ、簡単だからこそ初歩的でもあり、効果があるし、効果があるから多用されて陳腐化もするのだろうけど……」
俺は右手をかざして手のひらをヴラン城へ向ける。
「Rランクスキル発動、雷光の槍! さあ貫いてみせろ、電撃の槍よ!」
俺から放たれた雷のような槍が光を放ちながらヴラン城へと向かっていく。
激しい音と共に、尖塔の一つが崩壊した。
「ふむ、このランクでもただの石造りの建物であれば十分のようだな」
俺は二の矢、三の矢を放つ。俺の電撃を食らった所は石垣が崩れ、壁に穴が空く。
「さあ、ドラクールをあぶり出すか!」
俺が次々と放つ電撃で、ヴラン城を滅多打ちにしていった。