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冥界への扉

 精霊界は真っ暗だ。その中で光っている物はルシルの持つ銀枝の杖だけ、のはずだった。


「お、おお……」

「うあぁ……」


 だがどうだ、俺たちの周りに漂うドゥエルガルの半透明な奴らは、うすぼんやりと光りながらゆらゆらと動いている。


「だ、だからな、は、話を聴こうじゃないか!」


 もう自棄やけだ、こうなったらとことん付き合ってやるぞ!


「我らは冥界の伯爵ドラクールに魂をつなぎ止められし者……」

「そういう事だとすると、ドラクールがなにかをしていて、それを壊すなり解放するなりでお前たちは救われるんだな?」


 半透明の奴らはゆらりゆらりと俺の周りをうろうろしている。


「う……そう、我らは自由を求め、死を迎える事が望み……」

「新たな命として生まれ変わるためにも、今の生を終える事……」


 奴らは俺に向かって手を伸ばす。


「ひっ!!」


 思わず身体を固くして身構えてしまう。

 半透明は俺の身体を素通りしていくが、その時温度変化無効のスキルを持つはずの俺が寒気に襲われる。


「ゼロ、ちょっとビビりすぎだよ~」

「そそそ、そう言ってもだなあ……」


 こんなの、怖いじゃないか。


「でもさ、救うにしてもドラクールは冥界にいるんでしょう? 私たちはそこに行く手段がないんだよね」


 ルシルはわざとらしくそう言ってみせた。


「冥界への扉……」

「我らと共に……」


 さっきの黒い光りが更に強さを増す。精霊力の宝玉が光っているその光りを飲み込む程の黒い光りが辺りを包み込んでいく。


「我らと共に……」


 その黒い光の中でも、奴らのうすぼんやりとした青白い光りは見えている。


「我らと……」

「判った、判ったよ!」


 俺とルシルは手をつないで互いをしっかり確認し、半透明の奴らはその俺たちを何重にも囲むように輪を作った。


「ゼロ、上……」

「な、なんだあの渦は……」


 半透明の奴らがぐるぐる回ると、その勢いでなのか黒い光りも渦を巻いて上空に大きな穴が広がる。

 真っ暗な中でも、感覚でそれが穴だと理解する。認識と言ってもいいだろうか。


 見えているようで、感じる事。

 それが俺たちに降りかかってきた。


「しっかりつかまっていろよ、ルシル!」

「うん!」


 俺たちは互いに抱きしめ合って相手を感じる。

 その感覚だけが、二人をつなぎ止めていた。


「ゼロ、意識が……ううん、身体も……」


 俺たちの全てが、引き伸ばされて、押し縮められて、厚くなり、薄くなる。

 ねじれ、広げられ、分裂し、集約する。


「もう……私……」

「大丈夫、大丈夫だルシル……」


 俺もそう言うものの、自分の意識を保っている事が難しい。

 意識そのものもバラバラになってしまいそうだからだ。


「ルシル……」

「ゼロ……」


 それでも感じる事ができるのは、ルシルと触れている所。

 きっとルシルもそう感じている事だろう。


 亡者たちに導かれ、俺たちは冥界への扉をくぐった。

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