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亡霊の集い

 イチフンには途中まで案内してもらい、村へ戻ってもらった。俺とルシルは銀枝の杖が強く強く光る方へと進んでいく。


「イチフンが教えてくれた方向とこの宝玉の光が眩しくなる方向が合致している」

「ギルタブリルを倒した所が近いって事ね」

「そうだな。ギルタブリルがいた場所は確かに冥界の門とは近いのだろうが、動いていないとも限らない。だからルシルのその宝玉が目安になるんだ」


 ルシルは銀枝の杖をかざし、より光が強く放たれる方へと進んでいく。

 もうイチフンが教えてくれた方向とは違う。ギルタブリルを倒した場所とは異なる方向へと歩を進める。


「もうこの杖が頼りね」

「ああ。空間の歪んでいる場所が判れば」


 俺は言葉を途中で止めた。なにか異様な気配を感じたからだ。


「ゼロ……」

「この背中の毛が逆立つような感じ……」


 俺への敵意は感じられない。

 だがこの世ならざる者の放つ雰囲気というのだろうか。異質な感覚がまとわりつく。


「ゼロ、宝玉が!」

「すごい光を放っているな……まるで昼間のように」


 真っ暗な精霊界に光が広がる。

 とはいえ地面しか光を映す物はなく、それ以外は反射しないため真っ暗なままなのだが。


「地面……床の広がりから見れば、結構な範囲に光が広がっているはずなんだが、この怖気おぞけはいったいなんなんだ」

「なにも見えないよね」

「ああ。見えないし、特に敵意は感じられない。だが、なにかが近くにいる! それもかなりの数だ!!」


 俺は剣に手をかけ、いつでも抜けるように構える。

 ルシルも銀枝の杖を上にかざし、いつでもスキルを発動できるように身構えた。


「おかしい……。気配はあるんだが……」


 その俺の背中に、寒気が襲う。温度変化無効のスキルを常時発動させている俺が寒気を感じるなど。


「あり得ないっ!」


 とっさに俺は振り返る。

 するとそこには、真っ暗闇に浮かぶ半透明の骸骨が、俺のすぐそばに立っていた。


「お、うわっ!!」

「きゃぁっ!!」


 俺が驚いてその半透明の骸骨から遠ざかり、俺の声を聞いたルシルもその存在を認めて俺にくっついてきた。


「び、びっくりしたな……。だが亡者の類いであればこの超覚醒剣グラディエイトの魔力で相手になってやる……」

「ゼ、ゼロ、声が……振るえているよ……」

「ええい、声くらい、どどどうしたって言うんだ!!」


 俺はことさら声を張って気持ちに勢いを付ける。


「で、でもさ、ゼロ……」

「なんだ……」

「周り……」


 ルシルが辺りを照らす。

 そこに現れたのは、俺の目の前にいる奴と同じように、半透明の骸骨や、半透明で皮膚の焼けただれた身体をした者なんかが何体も浮かんでいた。


「ひっ……」


 ルシルが息を呑む。俺も同じように唾を飲み込もうとして、口がパサパサになっている事に気付いた。


「敵意は……それでも敵意はない……」


 敵感知センスエネミーは発動していない。だからこいつらには俺に対する敵意は持っていないとみるべきだ。


「亡者よ、冥界に住まいし者たちよ。お前たちは俺たちになにを訴える」

「ゼロ、これは死者よ! 死者と言葉を交わしてはいけないわ!」

「いいんだルシル」


 俺はルシルを背中にかばい、半透明で薄く青く光る奴らを見回す。


「さあ魂のみの存在よ! 俺になにを望むっ!!」

「ゼロ、死者に話しかけると冥界に引きずり込まれてしまうのよ!」

「そうさ、俺はそれを期待している」


 正直、幽霊とかこういう透明でフワフワした奴は大の苦手だ。

 でも今はそんな事を言っていられない。


「ルシル、俺に力を貸してくれ」

「えっ、なにをするの!?」


 驚くルシルの手に俺の手を添える。銀枝の杖をルシルと俺が一緒につかんでいるように。


「ゼロ、こっちの宝玉、精霊の宝玉とは違う宝玉から黒い光が……私がなにを言っているのか私にも判らないけど、光が黒い!」


 銀枝の杖にはいくつかの宝玉がくっついている。

 その一つがルシルの言うように黒く光り始めたのだ。

 俺も自分がなにを言っているのか理解できないが。


「お、おお……」


 亡霊たちがなにかうめき声のようなものを上げる。


「この黒い光、そしてその匂い……懐かしき姫様の、そして我が同胞の匂い……」


 姫様? そして同胞だと?


「お前たち、ドゥエルガルか」

「お、おお……」


 亡霊たちは俺の言葉に反応して小さく低く声を漏らす。


「我らはヴァンパイアに滅せられしドゥエルガル。精霊界にも戻れず、消滅する事もできずにいる者だ……」


 亡霊たちがゆらめき、薄く光り、小さく嗚咽する。


「我らのくびきを解き放っていただきたい……。どうか……」


 亡霊たちが俺たちにすり寄ってきた。いくつも、いくつもだ。


「ちょっ、ちょ、待て待て待て! 急に言われてもだな! ちょっと待つんだ!!」


 だがまあ、待ってもらった所で俺の早鐘のように鳴る心臓はちっとも落ち着かないんだが。


「待て! 話を聞くからそう近寄らないでくれ!!」


 俺は剣から手を放し、攻撃する意思はない事を示すよう両手のひらを上に向けて、腕を前に突き出す。


「お前たちの言い分を聴こうじゃないか」


 俺がそう話しかけると、亡霊たちは一瞬動きを止めた。

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