冥界との連絡
この聞き覚えのある声、冥界の伯爵ドラクール。声はどこからという事ではなく、俺たちの頭に響いてくるような声だ。
「思念伝達に似た伝達方法、とでも言うのか」
その方式自体は別段不思議でもないが、突然俺の思考に割り込んでくるのは気にくわないな。
「ドラクール! どういう事だ! お前がこの村を火の海にしたというのか!」
「ほう、儂の仕業と思うておるようだが。いや、儂の事を記憶しておったとは」
「記憶しているも何も、お前はもう冥界に戻ったんじゃないか!? 精霊界での肉体は俺が……」
塵と化して消え去ったはず。
「じゃから儂が冥界より力を行使し、生命体の所在を感知した場所へ橋頭堡を築こうと思うたが、それがこのような事になろうとはなあ」
「このような事だと!? お前が冥界から干渉したからこうなったとでも言うのか!」
「儂の力がほとばしりすぎてなあ」
「また精霊界にちょっかい出そうとしたのか」
「ふぅむ……」
思考だけの伝達ではあるものの、ドラクールが困っている様子は理解できた。
「強い力を感じた、とでも言おうか。力の道を探る事ができたのだよ」
「力の道……」
「ギルタブリル、あれは事故と言えば事故なのだがな、あやつは別の空間から冥界に至る道を護り、冥界への扉をふさぐ者であったがなにかの手違いで精霊界へと飛ばされてしまった。だがそのお陰とでも言うかな……」
「精霊界への道……冥界からの」
「ああ。強い力への道をたどっていたら、小さいながらも多数の力を見つけてな、そこから儂の実体を顕現させようと思うたが、力の発現のみで終わってしまったようじゃのう」
その発現がバウホルツ族の村を焼き滅ぼしたというのか。
「勝手な事をっ!」
「なにをぬかすか、儂の実体を亡き者にしておきながらよくもそのような事が言えたものよ」
「それはお前が人々の生活を脅かすからだろうが! 平和に暮らす者たちへの侵略を見過ごしていては、世界は混沌としたものとなってしまう!」
ドラクールが喉の奥で笑う。思考だけでもその様子が判る。
「小さき者ゼロよ、別に他者がどうなろうとそれは己とは関係のない事。その者たちへの責を負い、守護者を気取るか!?」
怒りの圧力とでも言おうか。負の感情が俺の中に流れ込んでくる。
「どうせ俺の見えない所まで全部救う事はできないさ。そこまで俺の手は、世界を包むほど大きくない」
「ほう」
「だがな、目の前で焼けていく命を見捨てて自分だけ生きていくつもりはない!」
「面白い。他者などの命のために己の命を使うと言うか」
「介在するという事は、そうなんだろうな。だがそれを放っておいて、後から悔やむ事はしたくない。あの時彼らを助けていればよかったと、失ってから気付くような事にはなりたくはないんだ!」
「ふっ」
ドラクールの意識がだんだんと離れていくような気がした。
「見捨てておけばよいものを、酔狂な事よのう……」
確かに他人を見捨てた方が俺としても楽だし、傷を負ったりしない。
「でもな、仲間たちが全て滅んでしまった世界で、周りは殺伐とした敵しかいないような場所じゃあ……」
もうドラクールの意識は俺とつながっていないだろうか。頭の中の声は聞こえなくなっている。
「のんびり隠居生活なんかできないじゃないか」
それは紛れもない、俺の本心だった。