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バウホルツの長老

 まだ結構くすぶってはいるものの、あらかた炎は消えた。俺が内部から氷……を溶かした水で、外側からはルシルが水を操って火を消したのだ。


「お陰で辺りが水浸しだし、それに湿度が高いのか全体的にもやがかっているな……」


 灰とススが水に濡れて俺の身体もどろどろになっている。


「それにしても流石は火蜥蜴の革鎧だな。あの火災の中でも耐えられる鎧っていうのはすごいもんだ」


 肩にかかっている灰を手で払い、汚れた部分を少しだけ取り除く。

 あとでしっかり磨いてやらないとな。


「ゼロ~!」


 遠くからルシルの声が聞こえる。


「ここだぞルシル!」


 俺もその声に応えた。


「ゼロっ!!」


 ルシルは俺の姿を見つけて俺の首に腕を回して飛びかかってくる。俺もルシルを抱きかかえるが、勢い余って身体が横に半回転してしまう。

 ルシルが振り回される感じで足が宙に浮く。精霊界のふんわり浮かぶ環境も手伝っての事だろうがな。


「おっととと、ほらお前も汚れちゃうから、もう離れなよ」

「いいの! 汚れても!!」


 そう言いながらルシルは笑いながら俺に抱きついている。


「ほら、ロイヤたちが来たぞ。いつまでもそんな格好していたら恥ずかしくないか?」

「別に~。それともゼロは私がこうやって抱きついているの……」


 ルシルが俺の目をじっと見た。


「迷惑?」


 いやいやいやいやいや!!! 困った仔犬みたいな顔をして俺を見つめるじゃないか。


「許す」

「いや~ん」


 俺はルシルを抱きしめてぐるぐると回る。ルシルは足が宙に浮いたまま、俺を中心としたコマのように振り回されていた。


「ゼロちゃん、ルシルちゃん……」

「ゼロさん……」


 ロイヤたちがススで汚れた姿で集まってくる。村の者たちだろう、炎の中から助かった者たちもちらほら見える。


「よいしょっと、ちょっとルシル、腕貸してやるからそっちで頼む」

「え~、しょうがないなあ。腕一本で我慢する」


 首に抱きついていたルシルが離れて、それでも俺の腕に抱きつきなおした。


「で、生き残りは? 他に助けられる者たちはいるか?」

「ゼロちゃん、今は動ける人たちだけで生存者を探しているなん」

「そうか。ロイヤも怪我しているじゃないか。Nランクスキル発動、簡易治癒ライトヒーリング。すこしだけなら傷もふさげる……」

「あ……」


 俺の手から小さいが柔らかい光が出てロイヤの擦り傷を綺麗に治していく。


「ありがとうなん!」

「いいさ。他に怪我をしている奴がいたらこっちに連れてこい。俺が治してやるからな。まあNランク(ノーマル)だから重傷には効かないかもしれないがな」

「そんな事ないなん、すごい助かるなん」


 俺がロイヤの傷を癒やし終えた時、アルキンたちもやってきた。


「ゼロさん、ルシルさん、あちらに小屋を建てましたのでそちらにお願いできますか」

「どうした。それに小屋って……」


 俺たちは導かれるままに後を追っていく。


「おおっ、こんな……」


 急遽しつらえたのだろうが、それでもコボルト、いや正確にはドゥエルガルなのだろうが、立派な屋敷が建っていた。


「これ、だってここはもう焼け野原……」

「いえ、我らにしてみれば焼けた柱も立派な木材。素材があればいくらでも家は建てられますよ」

「そんなものなのか……」


 すごいなこいつら。人間だったら数カ月はかかりそうな立派な家だ。


「では中へ、こちらです」


 両開きの大きな扉が俺たちを迎え入れる。


「ゼロさん、ルシルさん、こちらがバウホルツ族の村長で一族の長老でございます」


 アルキンが手のひらで指し示すその先には、犬らしい顔立ちながらも毛はほとんど抜け落ちて、顔中深い皺が刻まれている年老いた男だった。


「怪我が……酷い……」


 ルシルも息を呑む。長老は右肩から腰の左側にかけて大きな火傷が付いていて、まだそこからは血がにじみ出している。


「これは……」

「長老様が火の燃え移った家に飛び込まれて、赤ん坊を助け出されたのですが……その時に大きなはりが落ちてきたらしく、その身体で受け止められたらしいのです。赤ん坊は無事なのですが……」

「なるほどな、名誉の負傷と言う事か」


 俺は話を聞きながらも治癒のスキルを発動し始めた。

 ルシルは俺の発動したスキルに連動して銀枝の杖をかざすと、俺の治癒を施している腕がより一層輝きを増したように見える。

 これなら行けるぞ。まあ、老体の体力と回復力がどのくらいあるかにかかってはいるがな。

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