精霊力と魔法の杖
腹ごしらえをして荷物を整理した俺たちは全員で小屋をあとにする。バウホルツ族の村へロイヤを連れて行く事、そして村の長老に地上界への行き方について情報を持っていればそれを聞こうという事が当面の目的だ。
「なあアルキン、村まではどれくらいかかるんだ?」
俺は歩きながらアルキンに尋ねる。
犬のような顔をしたコボルト、正しくはドゥエルガルの血を引く一族たちは耳をパタつかせてお互いの顔を見ていた。
「そうですね、我らは調査をしつつ拠点となる場所を探しながらでしたので、まあ三日はかかったでしょうか」
「三日? 途中野営をしながらなのかな」
「えっと、慎重に進めていましたので、道が判っていればもっと早くは着けると思います」
「そうか……まあ、精霊界は真っ暗でいつが朝か夜かも判らないからな、適宜休憩を入れるとしようか」
俺は腕に抱きついているルシルを見る。
「それでいいよ、ゼロ」
「そっか」
ルシルはニコニコと上機嫌で俺につかまっていた。
なぜかロイヤはそんな俺たちを見て、これまた楽しそうに笑っている。
だが、その目は泣きはらしたかのように赤くなっていた。
「その目はどうしたんだロイヤ。寝不足か?」
「ううん、別に……大丈夫なん」
少し困ったような顔で、それでも笑いを絶やさないで返事をする。
まあ、本人が大丈夫だというのだから、それ以上は聞かない事にしよう。
「ねえゼロ、さっきからこの宝玉、明るさが違うんだけど」
「ああ、なんとなく気になっていたが、すごく明るくなる時もあればほとんど消えてしまっているくらいになっている時もあったな」
「どうしてなんだろうね?」
「ふーむ、精霊界のなにかの力が強くなったり弱くなったりしているのかな……」
俺は先を歩くアルキンに聞いてみた。
「ああそれはですね、精霊力と言いますか、ゼロさんがおっしゃるように精霊界の力の強さに反応しているんですよ。精霊力の強い所では、魔法の威力が倍加されるなんていう話もあります」
「ほう、魔力がねえ」
俺は腰に差していた剣を少しだけ抜いてみる。鞘から出た部分が精霊界の魔力に反応しているのか、淡い光を放っていた。
「これなら俺のスキルも威力が上がったりするかな?」
「どうだろうね、機会があったら試してみたら?」
ルシルはいたずらっぽく笑う。
まあ、その時は俺のスキルもどれだけの威力が発揮されるか、ルシルが言うように試してみたらいいかな。
俺たちは時々休憩を挟みながらアルキンたちの案内に従って村を目指す。
何度目かの休憩のあと、少し長めの移動をしていた時だった。
「ねえゼロ、先の方に光が見えない?」
ルシルが俺の手を引き前方に注意をうながす。
「どれ……」
ルシルの持つ銀枝の杖に布を被せて光をさえぎる。これで俺の赤外線暗視が使えるはずだが。
「赤く……いや、白く光が感じられる……」
「ゼロ、それって」
「ああ。かなりの熱がこの先に、かなり上の方までたゆたっている。それだけの熱が上っているのか……」
この揺らめき。
「火、か」
前方になにか大きな熱の塊が、炎のように揺れていた。