べったべた
「あれ? 昨夜はお楽しみだったかなん?」
朝、と言っても精霊界は昼夜の区別はないが、いきなりロイヤが馴れ馴れしく話しかけてきた。
目覚めた時を朝としたら、まあ寝る前は昨夜なんだろうな。
「今日は朝からお熱いなん」
「そう?」
軽口を叩くロイヤにルシルはこれまた軽く受け流す。
それどころかルシルはずっと俺の腕に抱きついたままだ。
「お、おいルシル、それだと歩きにくいんだが……。それになんだ、いろいろ当たってだな……」
「いいのよこれは、ゼロが嬉しいと思ってやっているんだから」
「えっと……」
ま、まあ嬉しい事は嬉しいんだが。
「でしょ?」
「え? あ! お前思念伝達使ったろう!」
「えへへ、いいでしょ~?」
いや、まあ、えっと、うん。
「い、いいけどさ……」
昨夜からルシルは俺にべったりだ。俺も抱きつかれている左腕はそのままにして、右手でルシルの手に触れる。
「俺も、落ち着く……から」
「うん!」
元々こうやって生活していた事もあって、俺たちにとっては前の日常が戻ってきたってだけなんだが、ロイヤたちにしてみれば突然の変化に戸惑ったりしているのだろう。
いや、ロイヤはこの変化を楽しんでいるような感じもするが。
「俺たちはしたくも済んでいるが、それでは朝食を取ったら村に行こうか」
俺はロイヤやアルキンたちとこれからの予定を調整する。
それにより、小屋には最低限の備品と誰かが訪れた時に判るよう書き置きを残しておく。
「これは?」
俺が壁に光る球の事をアルキンに尋ねる。ルシルの持つ銀枝の杖でいくつかある宝玉の一つに似ていたからだ。
「はい、これは精霊界にあると光を放つ宝玉、精霊玉です。その理屈は判りませんが火もいらず常に輝き続ける事ができます」
「言われてみれば明るさ度合いの違いはあってもルシルの杖も一つだけ光っている球があるな」
ルシルが持っていた杖は今壁に立てかけられている。すぐ手の届く所にあるが、今ルシルの手は俺の腕に抱きつく事で精一杯みたいだからな。
「あれも精霊石って事か」
「はい、恐らくは。でも他の宝玉は別の物のようですね。例えばこれ……」
アルキンが杖の上に付いている赤い色の宝玉を指さす。
「これは炎の宝玉で炎の力を増幅する効果があります。こちらの水色に見える宝玉は恐らく水の効果があると思います」
「ほう、面白いな。俺も効果が出てくれるといいんだが」
「きっと使えるでしょうね」
「それにしても、アルキンもあの杖は持てないのか? 触れない、というか……」
アルキンは残念そうな顔をする。ロイヤは銀をコバルトに変えてしまうと言う事で銀製の物は触れる事すらできなかったが、アルキンたちも同じようだ。
「それもドゥエルガルの定めし能力という事か」
「はい、ですがコバルトも使いようによっては何かできるかと思いますのでね、村では研究を進めている所ですよ」
「ほう、銀はヴァンパイアに効果があったが、そこから生成されたコバルトもなにか便利に使う事ができるといいな」
アルキンたちが研究しているコバルト。俺はただ単純にアルキンたちを応援しようと思っていただけだった。
「さあ朝ご飯ができましたよ」
メンデスとイチフンがパンと飲み物をトレイに乗せて持ってくる。
「まずは腹ごしらえからだな」
「だねっ!」
ルシルはまだイチフンがトレイに乗せた状態のパンをつまんで食べ始めた。