地上界への門
一息ついた所で俺とルシルが精霊界を離れようとしている事、ロイヤをアルキンたちに任せようと思っている事を伝える。
「我らとしては姫様にお戻りいただく事は、先の戦いからの復興には欠かせないものです。こうしてご無事なお顔を拝見すれば、村の皆も喜びましょう」
アルキンのいう事はもっともで、メンデスもイチフンも大袈裟なくらいにうなずいていた。
「ロイヤは、どうかな」
俺の問いにロイヤは難しそうな顔で悩んでいる。
「ロイヤは……」
そこまで口にして黙ってしまった。
「ルシルはどう思う?」
「そうね、ゼロが決めてくれれば私はそれでいいけど」
「そうか……。俺としては、やはりロイヤにはバウホルツ族の事を見て欲しいと思っている。族長がいなくては、一族としてもなにかと不安があるだろう」
既定路線。大人の都合。そして一族の考え。
立場や役割が面倒で世捨て人みたいな生活を望んでいた俺だからこそ理解しているつもりだ。
ロイヤは俺と共に冒険をしたり、旅を続けたりしたいのだと。
だが、それは逃亡から始まった一時的なもの。
「ロイヤ、巨大サソリ……ギルタブリルは冥界の門番という話だったな」
「そうなん、精霊界と冥界をつなぐ門の……」
ロイヤはアルキンたちを見ながら自分の答えが合っているかを確認しているようでもある。
「はい、姫様のおっしゃる通り、ギルタブリルは冥界の門を守る番人です。冥界に入ろうとする者を押しとどめ、冥界から這い出ようとする者を追い返す、そう言い伝えがあります」
アルキンがロイヤの言葉を補ってくれた。
「でもさ、そうしたらあの巨大サソリを倒しちゃったのはまずいかな?」
ルシルが疑問を投げかける。それは俺も思っていた事だ。
「それは大丈夫でしょう。この辺りに冥界との門があるとは伝わっていませんし、ギルタブリルも冥界とのつながりは伝説でしかありません。何度か我らの村も襲われたりしていましたし、この辺りに住まう魔獣として退治していましたから」
「そうなんだ。でも、だったらあんな所で急に出てくるのも変な話じゃない?」
「……そうですね、ルシルさんの言う通りかもしれません。いや、万が一、と言う事も……」
「万が一?」
ルシルがおうむ返しに聞き、アルキンがうなずく。
「我らもギルタブリルがどこからやってくるか、そう言われれば判っていませんでした。もしかすると、本当に冥界との門があって、そこからやってくるのでは、と」
俺も気になっていた事をぶつけてみる。
「生態系、と言うほどでもないかもしれないが、巨大サソリがどう産まれるとかは判っていないのか? 卵がどこで産み落とされて、幼虫がどう出てくるとか」
「はい、我らはそこまで詳しく知りません。成体としていきなり襲ってくるのみで」
「なるほどな。だとすると肉体や物質単位での転移、などという事も考えられないだろうか」
「転移、ですと!?」
アルキンは驚いて立ち上がり、その勢いで椅子が倒れた。
「空間の歪みなども影響しているかもしれない。そもそもだ、バウホルツ族はロイヤをどうやって地上界へと送り出したのだ?」
「あ……」
ギルタブリルが湧くような場所は、空間が歪んでいるかもしれない。
精霊界自体が強固な空間ではないとした時、そこが門になるのかもな。
「長老に、長老に聞いてみるなん!」
ロイヤの一言で、俺たちの次の目的地が決まった。
バウホルツ族の、村だ。