お互い戻ろうか
イチフンの匂い追跡能力で俺たちはロイヤたちの待つ小屋に戻ってきた。俺は暗い中でも赤外線暗視が使えるようになったし、ルシルが持っている銀枝の杖が光っていたりもするので、イチフンを追う事には困らなかった。
「お疲れ、ようやく戻ってきたな」
俺は一緒に歩いてきた二人にねぎらいの声をかける。
バウホルツ族の生き残りを探すために作った前線基地という話だが、村と基地の間の行き来が危険というのもなかなか問題だったよな。
「ゼロちゃん、ルシルちゃん!」
小屋の扉が開いて中からロイヤが飛び出してくる。小屋の灯りが外にも漏れて、真っ暗な精霊界の空間に光が広がった。
ロイヤがルシルに抱きついて尻尾を振っている。
「心配したのなん! 怪我は? していないなん?」
「ああ大丈夫だよ。俺も少しならスキルを使えるから小さな傷なら治せるし、なによりルシルがほとんどサソリを倒してくれたようなものだからな、俺としては楽ちんだったよ」
俺は今にも泣きそうなロイヤを見て、無事に戻ってきた事を実感した。
アルキンがロイヤのあとに出てきて扉を押さえている。
「ゼロさんルシルさん、ご無事の帰還、嬉しく思います。イチフン、首尾は?」
「我が輩はなにもしませんでしたが、お二人がギルタブリルを退治してくれました」
「そうかそうか。とにかく無事でよかった」
「はい……」
俺たちはアルキンにうながされて小屋の中に入った。初めは目がクラクラしたが、光に慣れていくとそこまで眩しいという事もなかった。
「まあ変わり映えしないですが、ひとまず椅子でも。ちょっとお茶も持ってこさせますので」
アルキンはメンデスにいろいろと指示をして、アルキン自身は俺たちの世話を焼き始める。
「いいよ俺たちは、適当に休むから」
「そうですか? それでしたらなにかお腹にたまる物でも作りますから」
アルキンはそう言いながらキッチンへ向かった。
「では我が輩も手伝います」
イチフンはアルキンを追うようにして部屋を出て行く。
「歩き疲れただろうに、少しは休んでいればいいのになあ」
「ここは彼らの小屋だもの、好きにさせてあげたら?」
ルシルはもう馴染んでいるのか、椅子に腰掛けて背もたれに身体を預けていた。俺もそれに倣って椅子に座ってから両手を挙げて背伸びをする。
こういう時、物怖じしない性格というのは楽でいい。衛士だった頃の俺は周りの目を気にして、気の休まる時がなかったからなあ。
「なあルシル」
「ん」
ルシルは生返事で椅子に寄りかかっている。
「ロイヤはアルキンたちと合流もできたし、村に戻ればもう心配はないんじゃないかと思うんだが」
「んー」
ルシルの反応は薄いがロイヤはなんだか心配そうに俺たちの事をみていた。
「ロイヤ、もしかしてもしかするなん?」
感付いたのか、さっきとは別の意味合いでロイヤの目が潤んでくる。
「前に俺たちが精霊界から抜けようとした時、ロイヤだけが出られなかっただろ?」
「うん……ロイヤだけ、行けなかったなん……」
「でもさ、こうしてバウホルツ族のみんなと一緒になれたんだ。ロイヤは精霊界にいても大丈夫かな、って思って」
それは俺たち三人とも思っていた事だ。
あの時にロイヤだけを精霊界に置いていくというのは不安があった。
だが今は違う。
「それならゼロちゃんたちもここにいるなん!? 村に行ったらさ、一緒に暮らそうなん!?」
ロイヤは耳をパタンと垂らして悲しそうな顔で俺たちを見る。
「私たちは戻りましょう。ね、ゼロ?」
そんな中でもルシルは抑揚のない落ち着いた声で話す。
「それともエナジードレインで力が弱くなったのに、精霊界でも王様になろうとか思ったりしているの、ゼロ」
「どうしたんだルシル、俺がそんな事を思ったりはしないし、王や権力に固執しているなら自分の国をアリアに託したりはしないさ」
「そうよね。ええ。知っていたけど」
「なんだ、気になる事があったら言ってくれよ」
普段のルシルと違うような感じもするし。
「別に、なんでもないから気にしないで」
それだけ言って、ルシルは椅子に寄りかかりながら目をつぶってしまった。