制限下の全力
俺の力は確かにランカから受けたエナジードレインで弱くなっている。だが、それも低すぎる訳ではない。
「いいか……Rランクスキル発動、雷光の槍! 突き抜けろ、電撃の槍よっ!」
俺は剣先をギルタブリルに向け、そこから電撃をほとばしらせた。
ギルタブリルの殻は俺の電撃も弾き返すだろう。
思った通り、巨大サソリは人間の顔を歪めもせず、俺の電撃をその大きなハサミで弾き飛ばした。
「続けてRランクスキル発動、氷塊の槍! その大きく振り上げたハサミが!」
俺の狙いはギルタブリルのハサミ。そのハサミが上がった所で関節部分があらわになる。
普段なら外側の固い甲羅に守られているが、振り上げたハサミの裏側は柔らかそうな関節だ。
そこに棘のような氷の槍が突き刺さった。
「びぎゃぁぁ!!」
人間のような、人形のような顔が真ん中からパックリと割れ、縦に割れた両側から鋭い牙が幾重にも見える。
その牙がうごめき、奥からは苦しそうなうめき声が聞こえた。
「そうやって反り返れば、また弱い部分が! ほらっ! 次は腹だ!! 脚の付け根だ!!」
俺は次から次へと氷の槍を巨大サソリに突き刺していく。
暴れれば暴れるほど、狙える箇所が増えていくわけだ。
「よしルシル、一発でかいのを食らわせてやれ!」
「うん! SSランクスキル爆雷煌!!」
ルシルがスキルを発動させ、先程の電撃とは比べものにならないような雷の塊がサソリを襲う。
「ぴぎしゃぁぁ!!」
叫び声と床を叩く脚の音が辺りにこだまする。
ルシルの雷はギルタブリルに刺さった氷の槍を伝って、サソリの体内にも電撃を加えた。殻の一部が吹き飛ぶほどに。
「もうあの殻は役に立たないぞ! ハサミも持ち上げられない!」
「そうだね! もう一発、SSSランクスキル地獄の骸爆ォッ!!」
ルシルがたたみかけるようにスキルを発動させる。次は爆発を伴う炎がギルタブリルの全身を覆った。
エビが焼けるような香ばしい匂いが、燃えて焦げ臭い煙と共に広がる。
「ゼロ、やったかな……」
「まだだ」
ギルタブリルはそれでも二股の尾を俺たちに向けていた。
「この尻尾を叩き斬ってからだ」
俺はギルタブリルの背後に回り込むと、横薙ぎに尻尾を斬り落とす。
ただの剣では固くて斬れなかっただろうが、超覚醒剣グラディエイトはそれ自体が魔力を帯びた剣で、魔力の刃は力を入れなくとも敵を斬る事ができた。
「あとは脅威となる物もなさそうだが……」
焼け焦げたサソリを剣で突く。反射的に動いてはいるが、特に抵抗をする様子はなかった。
「念のためだ」
俺は甲羅の割れている所から剣を突き刺し、サソリの身体を両断する。
「バラバラになれば生きてはいけないだろう」
念には念を。ある程度原形を留めないくらいに巨大サソリを破壊しつくす。
「まあこれくらいでいいだろう。Sランクスキル発動、風炎陣の舞……」
俺がスキルを発動させるも、小さい炎が出ただけで終わってしまった。
「あれ? さっきからゼロはスキルを使っていたのに、どうして?」
「やはりな。どうやら俺は、Sランク以上のスキルをうまく発動させられないみたいだ」
「Sランク以上?」
「ああ。NランクやRランクは使えたからな、その次のSランクは威力を発揮できなかった」
「あ……確かに」
ルシルを、当時の魔王を倒すくらいまで強くなった俺は、SSSランクのスキルを発動させる事ができた。
だがそれも、今ではRランクスキルまでしか使えなくなってしまっている。
「それでも戦い方によっては、強敵だとしてもなんとかなる。ルシルの手助けがあっての事だけどな」
「うん……」
ルシルは小さくうなずいた。だがその反応には少しだけ違和感が……。気のせい、だろうか。
「そ、そうだね、ゼロ。エナジードレインだからね……」
そうつぶやくルシルの目は、氷のような冷たさをたたえているように見えた。