一族の合流
俺たちは建物に案内されて明るい中に入り、徐々に光に慣れた目で辺りを見渡す。建物の中は石造りの無骨な壁に覆われていて、兵士の詰め所みたいな飾り気の無い装飾になっている。
「こちらにお掛けください」
ロイヤの後に通された俺たちは、部屋の中央にある木のテーブルに案内された。
俺は椅子に座り一息入れ、ルシルも俺に続く。
「ロイヤは……もう座っていたか」
「これで少し落ち着けるなん」
「なあロイヤ、この建物の中は……気付いたか?」
「ん、なんの事だなん?」
俺はつま先で床を軽く突くと固い音を鳴らした。
「あ、地面がふわふわしていないなん」
「ああ。その通りだ」
俺が床の具合を確かめていると、他の部屋に続く扉からコボルトの男が入ってくる。確かアルキンと呼ばれていた左目に刀傷のあるコボルトだ。手には大皿と鳥だろうか、焼いた肉が乗っていた。
「喉も渇いたでしょう、軽く飲み物も用意していますのでご自由にお飲みください。そして肉も丁度焼き上がった所ですので、一緒にお食事もいかがですか」
アルキンはグラスと皿を配り始める。続いて奥から来たメンデス、イチフンというコボルトたちもナイフとフォークを置いたり肉を切り分けたりしてくれた。
「いろいろとありがとう。ロイヤの一族でよかったよ」
俺は食事の支度をしてくれているコボルトたちに礼を言う。
「いえいえ、ゼロさんたちも大変でしたね。それに姫様からも聞きました。あのリザクールを討ち滅ぼしてくださったと」
「結果としてそうなっただけさ」
「ご謙遜を。その後もこの精霊界にまで入ってヴァンパイアの親玉も倒してくれたと聞いていますよ」
「それも成り行きさ」
だがそのヴァンパイアとの戦いでエナジードレインを受けて今の俺はかなり戦力としては低下してしまったが、それは俺の気の緩みもあったし、なによりこいつらのせいではないからな。
「ゼロ……」
俺の気持ちを察してか、ルシルは俺の手に触れる。俺はそれを握り返してやった。
「ですがそのお陰で我らはバウホルツ族再興を現実のものとできました。こうして姫様も我らの所へお戻りになりましたし」
「そのお前たちは前からこの建物にいたのか?」
「いえ、我らは精霊界をさまよいつつ、この地にひとまずの拠点をと思いまして、一昨日ですかね、ここで小屋を造り始めた所なんですよ」
「え、でもここってもう何年も使い込まれているような壁とかテーブルとか……あ」
ロイヤの事を思い出したが、バウホルツ族は家具や家を建てるなんて即座にできてしまう能力を持っていたっけ。
「とすると、この壁の傷やテーブルの焦げとかは……」
「はい、我らの汚し塗装ですよ」
すごい。本当に古い家具のようにも見えたが、これは新品をわざと傷つけたり汚したりして使い込んだように見せている技法か。
「ロイヤも鼻が高そうだな」
急遽建てた小屋という感じはしないが、それが不思議な安らぎを感じさせたりもした。
「そうなん! アルキンたちは石造りや木工家具については誰よりも早く上手に造れるだけじゃなくて、こういう味も出せるなん! ロイヤもできるように教えて欲しかったから……」
ロイヤは俺たちを見て、この小屋の出来栄えについて自慢気に説明をしてくれる。
「みんなが生きていてよかったなん……」
ニコッと笑ったロイヤに、キラリと涙が光ったような気がした。