目に見える温度
流石にいつまでも引きずられているのもな。
俺は自分でも歩けるように足を慣しながら、時々ルシルたちの肩を借りて立つようにする。
「おや?」
遠くになにかがあるような、そんなおぼろげな気配。
でも、真っ暗闇の中で少しでも光に反射する物があれば、気になる所でもある。
「なあルシル、ロイヤ、あの先になにか見えないか?」
ルシルたちも目を細めて俺の指す方を見た。
「う~ん、なにかあるようなないような……。でも近くに行ったら判るかもね」
「ロイヤもそう思うなん」
ここは警戒すべきか。確かにエナジードレインを食らってから力が出ない、と言うよりも力が弱くなった自分の感覚に慣れないという状況で、普段だったらできた事が同じ感覚でやろうとしたらできなくなっているのだが、なんとなく違和感を覚えると言うか危険を察知したと言うか……。
「戦士の本能、かな。少し気を引き締めて行きたい」
「判った。じゃあ閃光の浮遊球はどうする? 消す?」
閃光の浮遊球は今の俺では作れない。これはさっき確認したが、作り出そうとしてもできなかった。Sランクスキルだからか、スキルがうまく発動しないんだ。
ルシルも明かりとなるようなスキルは持っていないし。
「火だったらロイヤが作れるなん」
「そうなのか?」
「うん、さっきの扉で使っていた木片を持っているなん。これでたいまつを作れるなん」
「おお!」
そう言う事であれば閃光の浮遊球を消してもどうにかなりそうだ。
「じゃあ、いいか?」
俺はルシルたちに確認して、二人ともうなずいて応えた。
それを見て俺は閃光の浮遊球を解除する。
「暗い……」
辺りが闇に包まれた。
俺は立つためにルシルとロイヤの手をつないでいたが、その柔らかい手の感触とお互いの息づかいが、今ここに俺たちがいるという事を確認できる手段だった。
「あれ……?」
そのはずだったが、おぼろげながら俺の近くにある赤い光りを認識した。
見えたと言うより、認識したんだ。
「もしかして……」
俺はルシルの方を見ると、ルシルの形に赤い光りが、いや、ところどころ黄色がかったり赤が濃かったり、身体の凹凸に合わせて赤みが異なっているようにも見える。
するとどうだろうか、暗い中でなにかが赤くぼんやりと光って見える。
振り向けばルシルとロイヤも赤くな光っていた。
「赤外線暗視」
「え? もしかしてゼロ、私たちの事が見えるの?」
「あ、ああ。赤い光りで明るさというか、前に赤外線暗視は熱を感知して生き物の形が見えるとか聞いたが、これがそうなのか……」
俺は光の形に添ってルシルの手を、腕をたどっていく。
「ひゃんっ」
「あっ、ごめん!」
ちょっと上半身の辺りを触ってしまったのだろう。ルシルが驚いた様子で身体をすくめた。
柔らかい感触が手に残っている……。
「い、いいけど……私今、なにも見えないんだからね……」
「う、済まん……」
「真っ暗だからって、変な事しないでよ」
「あ、ああ」
ルシルにはちょっと悪い事をしたけど、だとするとさっきのなにか見えた気がした所……。
「ほう」
うっすらとなにかが見えた所、そこには赤い点が三つ点いていた。