無期限の友達
俺たちは精霊界の中を突っ走っていく。
ランカのエナジードレインを食らった俺は以前ほどの力を出せなくなり、文字通りルシルとロイヤに引っ張られる状態だ。
「なんだか悪いな」
「そんな事ないよ」
俺は荷物の中にあった敷き布の上に座っている。この布はマントや防寒具にもなるし、物をくるんで運ぶ事もできる。冒険の旅には便利な道具だ。
「ねえゼロちゃん」
前を行くロイヤが振り向きながら俺に話しかける。
「なんでゼロちゃんはロイヤの事を守ってくれるなん?」
暗闇の中をずっと歩いているんだ。お喋りでもしていないと不安や心配になったり、余計な事を考えたりしてしまうのだろう。
「そうだなあ、別にお前が特別とかいう事じゃないんだけどな」
「えー」
ロイヤはあからさまにがっかりした顔になる。
「けどさ、俺は基本的に出会う奴みんな、無期限の友達と思っているんだ」
「無期限の友達?」
「ああ。もちろんその場限りの出会いでそれから二度と会わない奴もたくさんいる。でもさ、いつか顔を合わせる事があるのなら、って思うと、仲良くしておきたいと思うだろう?」
「うん。でも、その次って言うのがいつかなんて判らないのなん」
ロイヤもいろいろと考えてみるようだが、確かにロイヤの言う通り、再会がいつになるのかなんて俺だって判らないさ。
「そうだな。会うかもしれないし、会わないかもしれない。でも、もし会う事ができたのなら、その時に敵対はしたくないんだよね」
「なんでなん?」
真剣な顔で俺の事を見るロイヤ。
「なんでって、面倒じゃないか」
照れ隠しにそうつぶやいた。真剣に考えると、顔が熱くなる気がした。
温度変化無効のスキルがあるから、顔が熱くなる事もないんだが。
いや、もしかしたら俺の能力が低下してスキルが発動していないのかも。ついそんな事も考えてしまった。
「いやまあともかくさ、基本的にはみんな仲良く楽しくしたいんだよなあ」
「でも、リザクールやランカには厳しかったのなん」
「まあな、俺も全員仲良くしたいけど、相手が敵意を向けてきたらその限りじゃない。敵は排除するさ。後腐れなくな」
聖人君子って訳じゃないからな、俺に、そして俺の仲間に危害を加えるような奴は早々に退場してもらうつもりだ。
「だったら敵が改心したらどうするなん?」
「改心できるなら俺もそれに付き合っていきたい。可能性があるならな。でも、そういう奴はだいたい敵対したまま命を終えるな」
「改心するかもしれないのになん?」
ロイヤは少し考えているというか悩んでいるというか、そんな疑問を俺にぶつけてきた。
「別に俺のことを嫌っていても構わないし、俺と接触しなければ気にもしない。でも、敵対して常に命を狙ってくるような奴を野放しにはしないさ。常に襲撃を警戒するのも疲れるしな。そう言う点では、リザクールもランカもそんな感じか。飛んでくる火の粉は払うしかない」
これは俺の持論だがな。やはり心を入れ替えるかどうか判らない敵よりも、自分や仲間を優先したい。ただそれだけなんだ。
「そ、そんなものなん?」
「そんなもんだよ。俺は神の使いでもなんでもないからな、全員を救済しようなんて思わないし、全員が俺に好意を抱いてくれるなんて幻想は持ち合わせていない。関わり合わないなら関係ないけど、邪魔なら消えてもらう。それだけだよ」
「そうなのなん……」
「ああ。面倒だからな」
これは本心だった。俺の行動理念と言うべきか。
近くに危険があるのなら早めに排除してしまいたい。俺はともかく、ルシルや仲間たち、そして俺の国の人たちのためにも。
まあ、今はもう俺の国民、という訳でもないのかもしれないけどな。
「だからかな、ランカには俺たちに刃向かってこないように、どこか遠くでひっそりと暮らしていれば死ぬ事もなかったんだが」
「うん、それはロイヤもそう思ったなん。そうしたらロイヤが困っていたら、ゼロちゃんが助けてくれるなん?」
「うん? あ、ああ。そうだな」
生返事をしたが、今の俺には仲間を守る力があるとは言えないからな。そこが心配なんだが。
それでもロイヤは嬉しそうに俺の乗った敷き布を引っ張ってくれていた。