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外界への門

 広いといっても部屋の入り口はあった。俺たちが来た洞窟だ。

 その向かいに出口があるのかは判らないが、例の洞窟から出られればいいと思って元来た所を辿ってきた。


「ゼロちゃん、ルシルちゃん……ロイヤ、ここを出られないなん……」

「え?」


 ロイヤの言っている意味が判らなかった。

 俺とルシルは暗い部屋を出て土でできた洞窟にいる。ロイヤはまだ部屋、俺の破壊した扉の向こう側にいた。


「ほら、ロイヤが出ようとすると、なにかが……」


 ロイヤは手を伸ばすが、部屋の入り口で柔らかい膜でもあるかのように跳ね返される。


「俺たちは何も抵抗なく出られたが……」

「ロイヤちゃん、勢い付けても駄目?」


 ルシルの提案に乗ったロイヤが助走を付けて入り口を突破しようとした。


「きゃんっ!」


 またしても柔らかな壁に阻まれるように弾き返され、ロイヤは尻餅をついてしまう。


「ちょ、ちょっと待ってな……」


 俺は入り口を通ってみる。まだ足下はふらつくが、ゆっくり歩く分には一人でも大丈夫だ。


「特に抵抗は……ないな……」


 出たり入ったりしてみるが、ロイヤのように跳ね返されたりはしない。


「ロイヤ、俺と一緒に出てみようか」

「うん……」


 俺はロイヤの肩を抱く。ロイヤは俺にしがみつくような格好で入り口に向かう。


「おっ」

「ひゃんっ!」


 俺だけが部屋を出てロイヤは強い力に引き剥がされるように部屋へ取り残されてしまった。


「ねえゼロ、銀枝の杖が関係しているのかな?」


 ルシルが俺に銀枝の杖を差し出す。


「ロイヤちゃんが持っていたら外に出られるとか」

「あ、いや、でもコボルトのロイヤが触れると銀がコバルトに変異してしまうんじゃないか?」

「あ……どうだろ……」


 ルシルは俺から視線を逸らして上の方を見ていた。


「でも、可能性があるかもしれない。俺が持ったままロイヤと一緒に出てみよう」

「そうだね、私も手伝う」


 俺たちはもう一度部屋に入り、ロイヤと一緒に出ようと試してみる。

 俺とルシルがロイヤを抱きかかえるようにして、俺が銀枝の杖を持つ。


「よし、これで行けるか……」


 俺たちが通過しようとすると、さっきと同じようにロイヤだけが強い力で引っ張られるようにして部屋に残ってしまう。


「いったいこれは……どうしたものか」

「ゼロ、この宝玉を持たせてみるとか?」

「精霊界とのつながりが関係していそうだからな……」


 俺とルシルが意見を交わしていた時、ロイヤが口を開いた。


「もう、大丈夫なん……」

「どうしたロイヤ。これだってなにか理屈があって出られないだけだ。それさえ解決してしまえば出られるはず」


 ロイヤは首を横に振る。


「いいの、ロイヤはここに残るなん。ロイヤ、だんだん思い出してきたなん。バウホルツ族は精霊界の住人だったようなん」

「バウホルツ族って、ロイヤが族長になったというコボルトの部族だよな」


 ロイヤは肯定するようにうなずいた。


「ロイヤはゼロちゃんたちがいた世界のコボルトに似た種族だけど、根っこは違うみたいだなん」

「それってどういう……」

「バウホルツ族は精霊界の一種族で銀をコバルトに変換できる種族なん。犬に似た容姿をしているから、地上界のコボルトと同じように見られている所はあると思うなん……」

「でも俺たちの住む世界のコボルトとは別の種族で……精霊界の種族……」


 確かにコボルトでは銀を別の金属にするという能力は聴いた事がない。

 まあ実際にコボルトとそう言った話をした事はないのだが。


「ルシル、魔王の軍隊にコボルトはいたか?」

「いなくはないけれど、そう言った話は聴いた事がなかったわね……」


 見た目に惑わされてコボルトだと思っていた所はあるが……。


「だが、だからと言ってロイヤが精霊界から出られないというのは……俺たちの世界へ来ていたのだから、できない訳がない」

「うん、ロイヤもそう思ったなん……」


 ロイヤが手を伸ばすと、やはり入り口の所で柔らかい壁に阻まれる。


「ゼロちゃんはゼロちゃんたちの世界に戻っていく。ロイヤは……バウホルツ族の務めを果たすなん……」

「ロイヤ……」


 俺はまだ力の入らない足でたどたどしく歩く。


「地上界なら俺も歩く事がまだ難しいかもしれないが、浮かべる精霊界なら動きやすいだろうからな」


 空間の境目を抜けてまた暗い部屋の中へ入る。


「別の出口がきっとある。ロイヤが精霊界で暮らせるようになるか、さもなければ俺たちと一緒に地上界へ行く手段を見つけるか。いずれにしてもここでお別れという事にはしないさ」

「ゼロちゃん……」


 俺の後に続いてルシルも部屋に入ってきた。


「私も異存はないわ。ロイヤちゃんだけを置いていく訳にもいかないしね。解決法を探しましょう」


 ルシルの言葉に俺も同意する。


「精霊界……」


 俺たちがいる場所は本当にその入り口に当たる所だろう。だとすれば、どこまで行けば俺たちの世界へ行けるのか、それかロイヤが平穏に過ごせる場所へと行けるのか。


「ともかく行ってみるしかないからな。Sランクスキル発動、閃光の浮遊球(フローティングライト)。お、おお、小さいが光の球が浮かんだぞ……」


 今まで俺が放った閃光の浮遊球(フローティングライト)よりは光の強さも大きさもかなり削られている状態だが、かろうじて光球は生み出された。


「こうなれば探索だな、精霊界」


 俺はルシルとロイヤの目を見て互いの意思を確認すると、暗闇の中を一歩踏み出した。

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