エナジードレイン
気が付けば俺は真っ暗な闇の中で仰向けに転がっていた。頭には柔らかい感触。
閃光の浮遊球が一つだけ浮かんでいて、その光りが映し出すのは俺とルシル、そしてロイヤの三人だけだった。
「目が覚めた?」
ルシルは膝に俺の頭を乗せた状態で、俺の顔をのぞき込む。
「膝枕、していてくれたのか」
「あのヴァンパイアに噛みつかれてすぐ倒れちゃったから。そのまま転がしておくのもどうかと思ったし」
「そうか。ありがとう」
「……うん」
俺は仰向けになったまま、ルシルの頬をなでる。
「ゼロちゃん、目が覚めたなん!?」
耳をタパタパと動かしてロイヤがひざ歩きで近づいてきた。
「ああ、大丈夫だ」
俺はロイヤのふさふさな頭を軽くなでてやると、うっとりとした目で俺を見る。
「なんだか身体がだるいというか、起き上がるのも少しきつそうだ……。もう少しこのままでいいか?」
「別に私は構わないけどさ」
「なあルシル、俺が意識を失ってからどれくらい経った?」
「そうね、そう何時間も経っていないかな。倒れてからすぐに駆け寄ったんだけどもうその時には意識が無くて、でも生きているみたいだったから少し眠ったら回復すると思ってね」
「足、痺れないか……?」
俺はルシルのふとももをポンポンと叩いた。
「い、今は大丈夫……。足を動かしたりすると……ちょっ、やばっ」
ルシルが膝をどけると俺の後頭部が床に落ちる。
「いてっ!」
「あたたたた……私も痛いよう……」
俺は頭を、ルシルは足をさすりながら痛みに耐えていた。
「よっと……あれ?」
俺は手を使って起き上がろうとするが全身に力が入らない。
何度も起きようとして倒れてしまう。
「おかしい……。力が全然入らないぞ」
「大丈夫? 怪我とか疲労だったら、SSSランクスキル、蘇生治癒……」
ルシルが治癒のスキルを発動し、回復させようとしてくれる。
「助かる、痛みが引いていくよ。これで全快……あれっ」
体力は回復したはずなのに起き上がる事ができない。いや、少しだけなら起き上がれるのだが、膝がガクガクと震えて立ち上がるのが一苦労だ。
「ゼロ、私の肩を貸すから」
「す……済まない。なぜだろう、全身の倦怠感なのか力を出そうとしても身体が……」
俺は腕をルシルの肩に回してどうにか支えてもらいながら立てた。
「ゼロ、ちょっといいかな」
「あ、ああ」
ルシルは俺の手を取ると、親指を口に咥える。指先に感じるチクリとした痛み。
「ありがと」
ルシルは俺の指を放して舌なめずりをした。
「ねえゼロ、疲れている所悪いんだけどさ」
「なんだ?」
「なんでもいいからスキルを使ってみて。明るいやつがいいかな」
「あ、ああ。Sランクスキル発動、風炎陣の舞……。炎の渦よ現れ……あれっ?」
俺の指先からほんの小さな火が生まれて、すぐに消えてしまう。
「失敗……だと!? Sランクスキル発動、風炎陣の舞! 風炎陣の舞!!」
俺がどれだけ叫んでも、スキル発動に力を込めても、指先からは小さな火が点いては消え、点いては消えを繰り返すのみだった。
「やっぱり。ゼロはあのヴァンパイアに力を吸い取られたのよ。今技能の吟味
を使ってゼロのスキルを見たの。そうしたら知らないスキルが登録されていたの」
「知らないスキルだって?」
「うん、エナジードレイン。そう表現されていたわ」
俺に掛けられた追加スキル、それがエナジードレイン。
「効果は、どういった効果があるんだ」
「私もよく判らないんだけど、アンデッドの中では相手の能力を減少させる力を持つ者がいるっていうのよ」
「ランカはリッチー、高位のアンデッドだった……。エナジードレインを使うなんて簡単だって事か」
「多分……」
俺の気の緩みだったか、ランカの命懸けの攻撃をわざわざ食らってしまった。
だが、付与されているという事は解除もできるはず。
「アンデッドの情報だとすると……エイブモズのユキネに聴いてみるか」
「そうね、まずはそうしてみましょう」
俺はたどたどしい足取りでこの暗い部屋から出ようとする。
その時だった。
「ゼロちゃん……」
ロイヤの声が俺たちの歩みを止めた。