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深遠の王女

 血も流れず鼓動もしない。胸にぽっかり空いた傷口から覗くランカの心臓は、動きもしないでただただ身体の奥に存在だけしていた。


「やられた。大罪の清算ジャッジメント・ギルティが効いていない訳ではなかった。効く対象がなかったという事か……」


 これだからアンデッドは困るんだ。

 ルシルの大罪の清算ジャッジメント・ギルティは確かに敵対する者の心臓を破裂させる。

 だが、その心臓が既に動いていなければいくら破裂させようとした所で効果はない。


「ヴァンパイア……そう、我はヴァンパイアであった。だが今はもうそれすらも超越したのだ!」


 ランカは高らかに笑い、愉悦の表情のまま傷口に自分の腕を突っ込む。


「我もどうなるかと思っていたが、爆発はしない所をみると我に掛けられた呪詛じゅそもお前たちの世界での生きる者に対してのみ効果がある物だと言う訳だ!」

「お前は……心臓も動いていなければ血も流れていないのか……」

「そう、我はアンデッドの中のアンデッド、ヴァンパイアをも越える不死の王女、リッチーとして昇華した究極の存在ぞ!」

「リッチーだと……」


 本物は見たことがなかったが、最高位とも言えるアンデッドの王、自らの生命を永遠の物とするために己の意思で肉体だけではなく魂も作り替えた者。それがリッチーだ。


「よもや我がここまでする必要に駆られるとは思わなかったが、だが結果として我の望む、いやそれ以上の力を手に入れることができたのでな、それから考えればお前たちに施された呪いもまた、我にとってはよき事であったと言えようぞ」


 ランカにしてみれば、ルシルから受けた大罪の清算ジャッジメント・ギルティが、自分の敗北ではなく新たな段階へ進むための踏み台となった訳だ。


「残念だったなあ、お前たちにとって最強と考えていたであろうかせは万能ではなかったのだ。そう、アンデッドにとってみればな!」

「くっ……」


 確かにそうだ。ランカの言葉に反論できない。

 思い返してみれば喰らう者(イーター)のユキネもアンデッドな訳だ。そう考えればユキネと話をしている時にだって、大罪の清算ジャッジメント・ギルティの抜け穴は気付けたかもしれない。

 心臓を破裂させる呪いの大きな欠点を。


「我の力を披露してやろうではないか。この精霊界でな!」

「せ、精霊界だと!」

「気付かなかったのか? お前たちは今精霊界にいるという事を」


 思い当たる節はいくつもある。

 透明ですり抜ける山、初めに入った地面よりも高い所にまで続く洞窟、そしてこの真っ暗で身体が浮かぶ部屋だ。


「どこぞの異次元か別世界だと思っていたが、なるほどこれが精霊界か。暗くてよく判らないが、変な感覚だったからな」


 だとするとルシルの持っている杖の宝玉が光っているのも、ユキネが精霊界から取り出したと言っていたし、精霊界にまつわる品だからか。


「精霊界。ユキネも冥界の伯爵が精霊界にいるとも言っていたからな。やはりそう言う事か。ようやく合点がいったぞ」


 俺はどうにか慣れたこの浮遊感を使いこなし、ランカに向き直って剣を向ける。


「冥界の伯爵ドラクールの孫娘が今度は不死の王女、リッチーのランカって事か。なかなかどうして、俺の隠遁いんとん生活も忙しいものだな」


 俺よりも高い所に浮いているランカは、俺を見下すような視線を投げた。


「心配するな愚かな人間よ。お前の余暇は我がここで終わりにしてくれようぞ」


 ランカは両手に血の剣を作りだして構える。実際にはランカの肉体に血液は通っていないのだが、高位魔術を使いこなすリッチーだからな、どこから血のような物を作りだしたとしても不思議ではないだろう。

 それにあの液体は物を溶かすし。血液のはずがない。


「いいだろう、できる事ならやってみるといい」


 俺は空中を蹴ってランカの浮かぶ空間へと飛び出していった。

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