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降らぬ血の雨

 肉の焦げる臭いが鼻をつく。俺の後ろで苦しさに耐えているロイヤが発するものだ。


「とろけるような、いや、実際に溶けている肉の香りだぞ、甘美なものではないか人間っ!」


 起き上がったランカは唾を吐き出しながら俺に向かってくる。


「てめぇ! これはロイヤが必死になって戦っている、その証だ! ふざけたことを言うとたたっ斬るぞ!」

「やってみたまえよ、大口を叩くのではなく実際に我の首を叩いてみせたらどうだ、ん?」


 ふてぶてしい表情で自分の首を手刀で叩くそぶりを見せた。いかにもここへ打ち込んでこいと言わんばかりの仕草で。


「俺の気を散らそうとしても無駄だぞ! 俺はルシルに全幅の信頼を寄せている! そのルシルが任せろと言ったんだ!」


 俺もランカに向かって歩みを進める。


「健気ではないか。人間の小娘がどれ程のものか見てみようではないか」


 ランカはまたもや血のような赤い液体を手のひらから生み出す。


「外は晴れているのだろうがな、屋内は血の雨が降らぬとも限らんぞ!?」

「その血はお前のになりそうだな、ヴァンパイアよ」


 ランカが血の塊を天井に向かって放り投げる。


「散れ。散って赤き雨を降らせ!」

「させるかよっ! SSランクスキル発動、豪炎の爆撃(グレーターボム)! 爆散させ、焼き尽くせっ!」


 俺の放つ豪炎が血の塊に当たると一気に炎で包み込む。その炎が小さく縮んだ所で巨大な爆発が発生する。


「破裂させてしまえば同じ事よ」

「さて、どうかな……」


 確かに爆発四散したせいで血の塊が雨のように散らばっていく。このままではこの部屋を溶かし尽くす飛沫しぶきが襲い来るはずだ。


「だがそうはならない」


 弾け飛んだ水滴は爆発した中心に残る豪炎が生き物のように追いかけ、取り込み、蒸発させていく。


「なっ、馬鹿なっ! あれだけの水量を、爆散させるだけではなくことごとく燃やしてしまう、だと……」

「諦めろ。もうお前の汁は効かねえ」

「し、汁言うな!」


 またもやランカは血で作った剣を振り回して攻撃してくる。

 これをまともに受ければ、ランカの剣は千切れたり弾けたりするだろう。


「これで判った。ランカ、お前に効くかは知らないが、お前の汁には効果があったという訳だ。SSSランクスキル発動、地獄の骸爆(ヘルズ・バースト)っ!! お前の汁ごと蒸発させてやるっ!」


 俺は剣を合わせることはせず、爆発を局所的に絞ってランカへ打ち込む。


「ぐっ!」


 俺の炎がランカに近づくにつれ、血の剣が先端から蒸発して消えていく。


「な、なめるなぁっ!」


 全身を火に巻かれながらランカが剣を振るう。

 だがその刀身は蒸発し、今はもう柄も消えかかっている。


「これでしまいだ」


 俺は超覚醒剣グラディエイトをランカの胸に突き刺した。


「く、くはぅ!」


 首をのけぞらせて苦しそうにうめくランカ。


「だと思ったか?」


 胸を貫かれた状態でランカはゆっくりとのけぞった首を戻して俺を見る。


「馬鹿な、胸を確実に突き刺したはずなのに!」


 俺の剣はランカの胸を貫通し背中から切っ先が出ていた。この状態で平気な訳がない。


「これが生きている者であれば、な」

「なにっ、生きている……だとっ!」

「くふふふ、その驚愕の顔、我にはたまらなく甘露だぞ!」


 俺は剣を抜いて間合いを取る。剣が抜けた所に見えた物、はだけた服と色白の肌を切り裂いてできた傷口の奥に潜む物。


「こいつ、心臓が止まっている……。手からは血のような物を出すくせに、身体の中には血が一滴も流れ出てこない!!」


 切り口から血が出る訳でもなく、それこそ血の気の失せた心臓が胸の奥で置かれている状態だった。

 ピクリとも動きもせず。

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