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浮かび上がった悪意

 塵と化した冥界の伯爵ドラクール。そして光を放ち続ける銀枝の杖に付いている宝玉。


「ルシル、俺は思うんだが」


 自分の考えが突飛であることは承知の上だ。だが俺はその想像を一人で抱え込む事は避けて、認識を共有しようとした。それによって状況の理解度が上がるかもしれないと考えたからだ。


「俺たちがいるこの部屋、いや、上ってきた通路も含めてなんだが」

「うん」


 ルシルは神妙な面持ちで俺を見る。


「ここは精霊界、なんじゃないか」


 俺の言葉に、ルシルもロイヤも一瞬驚いた表情を見せたが、それでもすぐに落ち着きを取り戻す。


「やっぱり、ゼロもそう思っていたんだね」

「という事は、ルシルも……」

「うん。それに、ロイヤちゃんもきっと……」


 俺とルシルがロイヤを見ると、俺たちの奇妙な会話にも慌てたり驚いたりする様子もなく、ロイヤはコボルトの少女らしからぬ落ち着いた風情で俺たちを見ていた。


「ゼロちゃん、ルシルちゃん。何事もなければ黙っていようと思ったなん」

「ロイヤ……」


 なにかを知っているような、悟ったようなロイヤの口ぶり。

 俺は彼女の様子を見て、不気味な物を感じていた。


「お前、もしかして……」


 俺の意図を汲んだのか、ロイヤは小さく、だがしっかりとうなずいて肯定する。


「ゼロちゃん、ロイヤは謝らなくちゃならないなん。ロイヤはゼロちゃんのいる世界の……」


 ロイヤがそこまで口にした所で、床が爆発を起こしてロイヤの身体が宙に舞う。

 暗い中でもどうにかロイヤの身体を目で追える程度だが。


「ロイヤっ!」


 宙に舞ったロイヤの身体を捕まえるため、俺は床を蹴って跳び上がる。


「ゼロちゃん……」


 俺は浮かんでいたロイヤを抱き留めてそのままの勢いで着地した。


「今はしゃべるな」


 ロイヤのいた所は大きな裂け目ができて、その隙間から赤黒いドロドロとした物が見える。

 その中から汚泥の中を泳ぐような動きでなにかが、いや、見知った奴が浮かんできた。


「よくもやってくれたね、我のおじいさまを」


 赤黒いヘドロから浮き出したのは……。


「ランカ……ヴァンパイアのランカか」

「我の名を口にするとは恐れを知らぬ人間よ」


 目は燃えるように赤く、肌は陶器のように白く滑らかな姿を現す。

 少女の身体ではあるがなにか畏敬の念を抱かせるような、そんな気迫すら感じる。


「ルシル、ロイヤ、下がっていろ。これは今までの感覚と違う」


 俺が言うか言わないかの間に、ランカは泥沼から飛び出して俺たちに赤い液体を放った。


「ちぃっ!」


 俺は飛んでくる液体を剣を振るった風圧で弾き返す。

 どうにか後ろにかばったルシルたちには届かなかったようだが、床に跳ねた液体がじわじわと煙を上げて床を溶かしていく。


「初撃はかわせたようだな、くふふ……」


 ランカは空中に浮きながら人形みたいに感情を失ったような顔に不敵な笑みを浮かべる。

 その様子を見て後ろからルシルが俺の袖を引っ張った。


「でもゼロ! あいつは大罪の清算ジャッジメント・ギルティがかかっていて私たちに敵対する気持ちは持てないはず!」


 ルシルの言う通り、ランカには魔王の呪詛じゅそである大罪の清算ジャッジメント・ギルティを付与している。俺や俺の仲間に敵意を向ければその心臓が破裂して息絶えるという究極で最悪のスキルだ。


「そうだ、そのはずだから今まで俺たちに罠や冥界の伯爵で攻撃を仕掛けてきたはず。ランカ本人は直接の殺意を抱かずに、な」

「だったらなんでこんな、あからさまに敵対するような……」

「危ないっ!」


 俺は後ろ手にルシルをかばってそのままバックステップで退く。その場所には更に放たれた赤い液体が床を焦がしていた。


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