正体現すイッツショータイム
俺たちは国境を通った。俺は改めてムサボール王国に入ったのだ。表向きはゼンという傭兵になって。
兵たちは口々に想いを吐き出す。やはりその内容は不安に満ちたものだった。
「帰ってきた、でもまだ町が無事かは判らない……」
「国境警備、誰もいないじゃないか」
「検問所も壊されているぞ……」
まずは人のいるところ、町や村へ急ぐ事だ。
「一番近い町はどこか判るか? この辺りに詳しい奴は」
俺が確認すると、何人かの兵士がこの近辺の地理を説明してくれる。
「助かる、この先だな。よーし皆もう一息だ、あと少しで町がある。そこで休めるぞ」
兵士たちの安堵した声があちこちから上がってきた。
「ゼンさん、あれ、前の」
少女兵ヒマワリが俺に教えてくれる。
「砂煙が立っているな。あの広がり方、歩兵の部隊か」
今まで林があってその奥の状況まで判らなかったが、あれはそこそこ大きい部隊の上げる砂煙だ。
「旗指物は……王国兵だよ、おーい皆、王国の軍隊がいるぞ!」
「おう、本当だ!」
「王国兵だ!」
ヒマワリの声に反応して何人かの兵士が喜んで駆け出す。
「おーい、おーい!」
兵士からしたら同じ王国の部隊だ。一時的に俺の指揮下に入っているとはいえ、やはりそこは仲間の意識が強いのだろう。
「おい、王国の軍隊がいるというのであれば、もう俺が指揮を取らなくともよいだろう。王都まで送り届けたわけではないが、あの規模の隊ならお前たちも一安心なのではないか?」
俺は兵士たちに王国軍への合流を促す。
「でも、それじゃああたしたち……」
向こうの王国軍が近くなってくる。当然あちら側も俺たちを認識している。敵対はしないが警戒はしているようだ。
その中から一人、馬に乗っている指揮官らしき男が近づいてくる。
「なんだお前ら、小汚ねえ雑兵どもが」
その指揮官は右手のカギ爪を馬の鞍に擦り付ける。金属の軋む音が辺りに響いた。指揮官は俺を見て驚いた顔をする。
「なんだなんだ、お前ら今までどこを見ていたんだよっ!」
ソウッテがわめき散らす。俺が右腕を斬り落とした男は俺にカギ爪を突きつけた。
「こいつは王国へ楯突く大罪人のゼロだぞ! なぜそんな奴と行動してんだよ!」
「えっ!」
「ゼロ……」
「まさか、勇者ゼロか……」
俺と共に行動をしていた連中に動揺が広がる。
ヒマワリが驚いた上で心配そうに俺を見ていた。
「大罪人とはご挨拶だな。一方的な解雇を宣言しておきながら自分たちが被害者を騙るなど言語道断。俺はただ平和に暮らしたいだけだったのに、それすらもお前たちは奪っていくのだぞ」
俺は抜いた聖剣の切っ先をソウッテへ向けた。
「だから俺は、己の平穏のため好きなことをするため、面倒事を仕掛けてくる奴は徹底的に排除しなくてはならないと決めたのだ」
兵士たちの動揺は収まらないどころか余計に騒がしくなっていくようだ。それ以上にソウッテの兵たちが俺を敵視してくる。耳の奥が痛くなってきた。敵感知が発動しているのだ。
「聴けぃ兵士諸君っ! お前たちにも家族がいるだろう! 家族を悲しませたくなければ俺に手を出すな! 俺は一万の魔王軍を一人で倒した男だ。お前たちが束になっても勝てはしない! いいか、死んでもいい奴だけかかってこい。一撃でその願いを叶えてやる!」
周りの兵士たちが静かになる。
「ゆ、勇者ゼロ様、俺たちは国に嫁と子供がいるんだ。魔族が襲ってくるってんで、国を守るために戦へ出たんだ」
「俺は年取った母ちゃんが……」
ソウッテの兵士たちは懇願する目で俺に話しかけてくる。
「それで? 生き抜くための助力ならしよう。だがただ単純に王国で暮らすことを望むだけであるのなら、それはもはや叶わんぞ」
俺は一呼吸入れて兵士たちに宣言する。
「なぜなら俺がムサボール王国を滅ぼすからだ! 王国に搾取される生活は終わりだ。権力に押しつぶされる日々は終わった! 今一度考えろ、今までの王国が何をしてきたか、お前たちに何をしてくれたか!」
ソウッテに向けた剣先はそのまま、俺は周りを見渡す。
「あいつのような一部の特権階級の横暴を許せるというのか! 王国の理不尽に従うというのか!」
「だがしかし……」
「王国に殉ずる意志を止めるつもりはない。それでも……」
「なあにごちゃごちゃと口先だけの元勇者様がよぅ」
俺の話の途中で割り込んできたのは全身古傷だらけの大柄な戦士。
「ソウッテ様、生きのいい奴がいるじゃあねえですか」
「うむ、俺様の部下でも随一の怪力の持ち主であるお前だ、期待しているぞ」
「こいつ、勇者だかなんだか知らねえが、好きにしちゃっていいんですよね」
「ああ、構わんぞ」
「えっへへへー、よーし、お前はこれから俺様のおもちゃるぶぁ!」
俺の拳が大柄な戦士の鼻先に当たる。
「こんな奴でも随一なんて、お前の部隊はたかが知れているな、ソウッテ!」
【後書きコーナー】
サブタイトル、正体とショータイム……。ごほん、ごほん。