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冥界伯爵の居城

 身体を起こす。ふわふわした感覚というか、地に足が付かないって、別の意味で思った訳だが。


「急いだり慌てたりすると踏ん張りが利かないからな、気をつけなければ」

「そ、そうね」


 ルシルは起き上がってから居住まいを正し、照れくさそうに着衣の乱れを直す。

 要するに、倒れた時に服がめくれたりなんだかんだ。まあ気にしないことにしよう。


「確かにね、ゼロが言うように慎重に歩けば動けなくもないけど、にゃんっ!」


 ルシルが転びそうになって俺が腰に手を回して支えてやる。


「あ、ありがとう……」

「少し落ち着くまで俺につかまっていろよ」

「う、うん……」

「えっと、ロイヤは大丈夫……そうだな」


 ロイヤはこの身体が浮いている状況でも平気で動き回っていた。


「うん、ロイヤはここ、平気なん。なんだか昔を思い出すなん」

「昔?」

「ロイヤがちっちゃい時なん。もうほとんど覚えていなかったけど、ここに来たらなんとなくなん」

「そうなのか、ふうむ」


 ロイヤは昔にこういう体験をしていたのか、それとも。


「ルシル、俺が手を引くからゆっくりとな」

「うん……」

「なんだかルシルは産まれたての動物みたいだな。足がプルプルしている」

「ちょっ!」


 ルシルは俺の手をはねのけようとするが、一声小さく叫んでおれの腕にしがみついた。


「い、意地悪言わないでよう……」

「すまんすまん」


 でもこうやって弱々しくしているルシルも可愛いものだな、とか思ったり。


「ほほう、確かにその小さき者が言う事も理解できるなあ」


 部屋の天井、といって暗くてよく見えないが、その上の方から声が聞こえた。


「騒がしいと思って来てみればまさか小さき者たちが儂の居城に現れるとはなあ。ぶわはははっ!」


 暗い中で目が光る。


「冥界の伯爵か……」

「ぬふふ、儂を覚えておるとは殊勝な心がけであるのう、ぬふぅ」


 俺はルシルを後ろに回してからゆっくりと剣を抜く。


「あの時に斬られた右膝がまだ痛くてなあ。なかなかに歯応えのある小さき者であったと感心しておる所だわい」

「もう普通に動けるのか。あれだけの深手を負わせたのに」

「あれしきの傷、治癒の力でも使えば治すはたやすき事なれど、痛みの記憶まではそうそうぬぐい去れぬものであるからな」


 暗闇とも思える空間から光る目が細くなっている。


「事あるごとに小さき者の顔が、そしてその小憎らしい剣が儂の脳裏をよぎるのであるよ……」

「ほう」

「で、あるからして」


 空気の流れを感じた。そして俺に対する敵意と殺意。敵感知センスエネミーの痛みが俺の耳奥でうずく。


「これで静かに眠れるというものよっ!」


 冥界の伯爵の巨大な足がうなりを上げて振り下ろされる。俺たちを踏み潰そうとだ。俺はルシルとロイヤを抱えて横に跳び退いた。俺たちのいた場所を巨人の足が踏みつける。一瞬でも遅れたら潰れたヒキガエルのようになっていただろう。


「おやぁ、それはもしや……ほほう」


 冥界の伯爵の感情がこもっていない声が上の方から発せられた。

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