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オークの生活臭

 落とし穴の途中にある横穴に俺たちは潜り込んだ。床にはなにかを引きずったような跡が残っている。


「そういえば落とし穴のそこには槍が突き出していたが、その隙間には壊れた武器とかも転がっていたように見えた」

「もしかしてあの穴、落とし穴でもあったけれどゴミ捨て場にも使われていたのかな」

「ここを作った奴と今住んでいる奴が違う、か。ありそうな話だな」


 新たに棲み着いた連中がオークだという事なら読み通りなのだが。


「ゼロちゃん、この奥……臭いがするなん」


 ロイヤが鼻をヒクヒクさせる。コボルトのロイヤは犬のような嗅覚で臭いを嗅ぎ分けられるらしい。


「よし、慎重にな」


 俺が剣を抜いて構えながら前に進む。


「ルシル、その杖……」

「うん、さっきからずっとなんだ」


 銀枝の杖に付いている宝玉が一つだけ光っていた。


「これはあの山を通り過ぎた時にも光っていた奴か」

「うん……ここはなにかあるのかな」

「さあて、探ってみれば判るさ」


 どうやら横穴の通路は終わりに近づいているようで、通路の先から光りが見える。

 揺らめき具合からしてろうそくかランタンのような小さな火で灯りをつけているようだ。


「通路が終わる。壁に貼り付いていろ」

「うん」

「ロイヤ、この臭いはオークの物か」


 ロイヤは小さくうなずく。


「よし、外を覗いてみるぞ」


 俺はゆっくりと通路から顔を出す。

 そこには、木でできたテーブルや椅子、荒い草でできたラグマット、無造作に壁へ立てかけた剣や盾。至る所で走り回るネズミ、そして寝転がっているオークの集団が見えた。


「いたなオークども。だがこいつらが俺たちの所に攻め込んできた奴かどうか……ん?」


 俺は向かいの壁に立てかけられた肖像画を見る。こんな場所にはそぐわない物だ。


「あの肖像画……」


 そこには正面を向いたランカの姿が描かれていた。


「間違いない、あのヴァンパイアに関係する拠点だ」

「本当だ、あのヴァンパイアの女の子の絵だね」

「周りは汚いのにあの絵だけは綺麗に飾られている。ここの住人がランカと関係がなかったらあんな風に綺麗に飾っているという事はないだろうからな」


 前の住人が残していった物であれば、オークは気にせずに薪にでもしただろう。

 そうでないという事は、ランカの息がかかったオークどもであるはずだ。


「一匹二匹、話を聴いてみるか」


 俺は横穴から飛び出して、寝転がっているオークを蹴っ飛ばす。


「ぶひっ!?」

「お目覚めか?」

「ん、ぶひーっ!!」


 よだれを垂らしながら寝ぼけ眼のオークが俺を見てびっくりする。


「お、お、お前、ランカ様にいたずらした悪い奴!」


 これで確定だな。こっちが聴く前にランカの名前がオークの口から出るなんて。


「おいおい人聞きの悪い事を言うなよ。抵抗しなければ痛い思いはしないで済むからな、大人しくしろよ」

「ぶひぃ、ええい! 起きろっ! 女の子にいたずらする悪い奴が泥棒しにきたぞ!」


 オークは必死に声を張り上げる。その声で寝ていた他のオークどもが目を覚まして起き上がってきた。


「侵入者だ! 侵入者が出たそ……」


 俺はわめき散らすオークの首を一太刀で刎ね飛ばす。


「抵抗するからこうなる。会話にはならなかったが目的は果たしたかな。ここがこいつらの根城だってな」


 起き上がってきたオークどもが臨戦態勢を取る前に、手近な奴から斬り伏せていった。


 一方的な蹂躙。

 壁に掛かっていたランタンにオークの血が飛び、この小さい部屋が赤く染められていく。


「おっと、全員殺してしまう所だった」


 俺は片足を斬って倒した奴に近づいた。一匹だけ致命傷にならない程度に手加減して残した奴だ。


「抵抗しなければ痛い思いはしないで済むからな、大人しく答えるんだ。いいな」


 俺は足を押さえながらうずくまるオークは、わなわなと震えながら俺の方を見る。


「俺たちの所に攻めてきたオークはこの洞窟にいる奴らで全部か?」


 痛みと恐怖で震えるオークは返事もできない様子だ。


「もう一度聞くぞ。俺たちの館を襲ったオークはお前たちだな?」


 オークはうめきながらも俺をにらむ。


「そ、そうだ人間……わいらはランカ様のしもべ。偉大なるランカ様に仕える大オークの一族だ! お前は確かに強い、だがランカ様が、いや、ランカ様が召喚される冥界の伯爵様が、必ずお前たちを滅ぼすだろう!」


 オークは言うだけ言って、後は高笑いを続ける。


「ふむ、読み通りでよかった。いい情報を教えてくれた褒美だ、痛くないようにしてやろう」


 俺はオークに近づいて俺が斬り飛ばした足の傷口に手を添えた。


「Nランクスキル発動、簡易治癒ライトヒーリング。傷の痛みを癒やせ……」


 俺の手から淡い光がオークの足に伝わり、オークは気が抜けたのか意識が途切れたようだ。


「ゼロいいの? 生かしておいて」


 横穴から出てきたルシルが俺の隣に来ていた。

 もうこの倒れているオークの他に、この部屋には生きているオークはいない。


「まあいいだろう。運がよければネズミに食われずに済むだろうからな。一応、俺の質問に答えたんだ。約束通り痛まずに済むよう治癒をかけてやっただけだよ」

「足を斬ったのもゼロだけどね」

「それはともかくだ、ここは食堂か休憩室のような感じだろうな。となると、宿舎みたいにオークが集まっているような所がどこかにあるはずだ」

「探せばあのヴァンパイアもいるかな?」

「オークのねぐらだからな、ヴァンパイアはいないかもしれないが。それよりもその銀枝の杖、そいつの光りが気になる」


 俺はさっきから光り始めた宝玉をじっと見つめた。

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