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掃除用の横穴

 大きな落とし穴の途中でぶら下がっている俺。俺が片手でつかんでいるのはロイヤだ。


「ロイヤ、俺の足につかまれるか?」

「う……ん、頑張るなん」


 俺はロイヤをつかんでいる左腕を持ち上げる。ロイヤがその分引っ張り上げられ、ロイヤの空いている右手が俺の足に絡みつく。


「よいっと」


 ロイヤはそのまま腹筋で足を持ち上げて、俺の足にしがみついた。

 俺は上を向いてルシルに尋ねる。


「ルシルそっちはど……」

「やだぁ! もう玉、玉! 玉が来てるよっ!」

「判った! この穴の中に水を流し込んでくれ! 俺たちの足下辺りまで!」

「えっ、そんな事……」

「いいから早くっ!」

「もうっ、判ったわよっ! Rランクスキル海神の奔流(ウォーターバースト)!」


 ルシルはスキルで水を生成して穴の中に流し入れた。


「よし、結構溜まるのが早いぞ」

「ねぇゼロ、まだ!?」


 水かさが増していく様子を見ながらタイミングを計る。


「よし! 止めてくれ!」

「うわぁゼロ! もう玉! 玉が来るよ!」

「もう少しだっ! Sランクスキル発動、凍晶柱の撃弾(フリーズバースト)っ! 水の中に氷の柱を作れっ!!」


 俺の生成した氷柱が何本も水の中に飛び込んでいき、落とし穴の底に突き刺さった。


「Nランクスキル発動、氷結の指(アイシング)っ! 水の表面に氷の膜を作れ!」


 一瞬で溜まった水に薄い氷の膜ができるが、これでは人を支えきれない。それに波立った水面は棘のようにささくれ立っている。


「続けてRランクスキル発動、凍結の氷壁(アイスウォール)! これで蓋をするから、ルシルっ、飛び込めっ!」


 表面の凍った部分に氷の板がのしかかった。俺が凍らせた水面と氷柱の冷気で水がどんどんと凍っていき、その凍った部分が氷柱と氷の板とをつないでいく。


「よっと!」


 その凍った氷の板にルシルが飛び乗った。ここまで凍っていれば俺たちが乗っても大丈夫だ。

 それと同時に穴の上では大きな物体が音を立てて通過していった。


「ねえゼロ、なんでわざわざ氷柱を立てたり表面を凍らせたりしたのよ。初めから板を出しておけば早かったのに」

「確かにな、早さならそれでよかったんだが、氷の板だけでは心配でな。下から槍が何本も突き出しているし、降りた衝撃でその槍が板を突き破らないとも限らない。だからルシルの入れてくれた水を凍らせたかったんだが、ただ凍らせるだけだとここまで早くはできなかったからな」

「ふうん、よく判らないけどなるほどね」

「なるほどって判ってないのかよ」

「まあいいじゃない。それで……ロイヤちゃんはいつまでゼロにしがみついているのかな?」


 言われてみれば、氷の上にルシルが立って腕組みをしている。俺も剣を壁に刺したままぶら下がっていないで、とっとと降りればよかった。


「よっと、ふう。大丈夫かロイヤ」

「う、うん、大丈夫なん……」


 ロイヤは俺から離れて氷の上に立った。それに合わせて俺も剣を壁から引き抜いて氷の板に着地する。


「それにしても、ここは通用口じゃないみたいだな。死の罠が仕掛けられているし、なかなかに大がかりだからな」

「そうね、オークがこの洞窟を使っていたとしても、あんな罠がしょっちゅう動いちゃったら、元に戻すのも大変でしょうし」

「挽き肉になるか串刺しになるか、だからな」

「安心して生活はできないよねぇ」


 その通りだ。よくよく見てみると、これらの罠は使われた形跡がない。

 落とし穴に被害者らしき残骸はないし、上を通過した玉はそう頻繁に置き直したりなんてできないだろう。


「俺たちが初めての被害者か……」


 そう思うと、俺たちはオーク以下の脳みそしか持っていないんじゃないかなんて疑いたくもなった。


「まあいいや、ここを出て道を探し直そう……ん?」

「どうしたのゼロ」


 俺は光の加減でよく見えなかったが、落とし穴の途中にある影を見つけた。


「あそこ、もう少し閃光の浮遊球(フローティングライト)を近付けてみよう……」

「あの影?」

「ああ。少し待っていろ……っと、これは」


 浮遊する明かりに照らされて、横道となっている穴が見える。


「ここからだと、俺の身長の倍くらいの高さはあるかな」

「届く?」


 俺は軽く屈伸してから氷の床を思いっきり蹴った。

 跳んだ先には横穴があり、左手を穴の縁に引っかけ、その勢いで穴の中に飛び込む。


「余裕だな」


 俺は腰の道具入れから携帯ロープを取り出して、下で待っている二人に向けて垂らした。


「これにつかまって。ゆっくり上がってこいよ」


 ルシルたちはロープをつかみながら壁に足を突いて登ってくる。俺はロープを引っ張りながら二人が登ってくる様子を見守っていた。

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