死の罠の地下迷宮
俺たちは洞窟の坂を下っていく。坂は一本道だったが、くねくねと折れ曲がっているから外からの明かりはすぐに入らなくなった。
閃光の浮遊球の明かりが俺の見える範囲だ。
「ロイヤ、コボルトは赤外線暗視を使えるのか?」
「うーん、暗い所はあまり得意じゃないなん」
「そうか……暗闇で熱を感知できるとか、そういうのができたら洞窟探索もはかどるかなと思ったんだが」
「ごめんなん……」
「あ、いやいや!」
ロイヤがしおらしくなるものだから、俺は慌てて手を振って否定する。
「俺もルシルも赤外線暗視は使えなくてさ。今まで使える種族の者も何人か見てきたから、聴いてみただけだよ」
「そうなん?」
「ああ、だから視野としては俺たちと同じだな」
「うん、同じなん」
安心したのか、少し嬉しそうにロイヤが笑った。
「それにしてもだいぶ下ってきたと思うんだが、ずっと一本道の下り坂だな」
「そうね。急な曲がり角はなかったけれど……脇道もないし、このまま進んでいくしかないよね?」
ルシルの言う通り、まずは行くだけ行ってみるしかなさそうだな。そう思った俺の足に、なにかが引っかかる感触。
「お?」
「ゼロ!」
床に這わせてあった糸を切ってしまった。
「これって……」
「多分……」
通路の上の方でなにかが動く音が聞こえて、大きな物が落ちる音も聞こえた。
「なにか擦れる音? それと……転がる音?」
ルシルが聞き耳を立ててくれる。確かに、そんなような音が俺にも聞こえてきた。
「ゼロちゃんルシルちゃん、どんどん近づいてくるなん!」
「ねえゼロ、これって……」
俺は辺りを再確認する。
洞窟は地面を掘ったようなもので、いびつな所はあるが丸い輪を描くように削られている。そのため、壁と天井の境目などはなく、地面からぐるり一周するようなもの。
地面も丸く削られていたのかもしれないが、崩れた石や土がそこそこ積もっていて、歩く分には困らない程度には平坦になっている。
「三人で歩くくらいは楽にできる幅だが……」
なにか迫ってくる音。少しの傾斜。丸い筒のような通路。
「急いで下っていこう。もしかしたら途中でくぼみや横道が見つかるかもしれない」
「そうね、音がどんどん大きくなっていくけれど、大丈夫かしら」
「まあ行ける所まで行こう……って、おわっ!」
「ぴやーっ!」
先に進めていたロイヤが視界から消えた。それと同時に俺も急な浮遊感に襲われる。
「ゼロちゃん!」
俺とロイヤは落とし穴に引っかかったんだ。下を見ると落ちていくロイヤが見えた。
「くっ!」
俺はロイヤの伸ばした手を左手でつかみ、右手で剣を抜いて落とし穴の壁に突き刺す。
落下する感覚が止まって剣にぶら下がっている状態だ。
「あ、下、足……」
ぼんやりと見える所だと、木の槍が何本も尖った方を上に向けて落とし穴の下から生えていた。
「ロイヤ、大丈夫か! 怪我はないか!」
「ひっ、だ、大丈夫なん……」
どうやらぎりぎりの所でロイヤは木の槍の餌食にはなっていないようだ。
「ゼロ、ロイヤちゃん、大丈夫!?」
落とし穴の上からルシルが叫ぶ。それ程落下はしていないつもりだったが、人ひとり分くらいは落ちたようだな。
「ああ大丈夫だ! ルシル、そっちはどうだ!」
「え、あ! 玉! 玉!」
「玉がなんだって!?」
「おっきな玉が転がってきている! どうしようゼロ!」
通路にいるルシルは背後から迫ってくる大きな玉をどうにかしなくてはならないし、俺はロイヤをつかみながら落とし穴の途中でぶら下がっている。
「参ったなこれは……」
だが悩んでいる暇はない。どうにかしなくてはな。
この死の罠から抜け出すために。