集団の追跡
俺たちは地図の周りを囲むようにして座っている。まあ、ウィブはその大きさから少し離れた所から首を伸ばして見ている状態だが。
「今俺たちのいる草原は、そうだな、草原だからまだこの地図で言うところの北西の荒野にまで至っていないから、おおよそこの辺りか」
「そうね、南に小さいながらも険しい山が見えるっていう所だと、その山が地図のこの辺り、クランベル山なのかしらね」
「多分な。地形的にもそう見える。という事なら、このまま北西に向かえば、荒野に出て例の山が出てくるはずなんだが……」
俺は首を巡らせてウィブを見る。
「空から見ると、既に透けた山を通過した訳だからのう」
「そうなんだよ。ウィブが言う通り、というか俺たちも体験したわけだが、あの透ける山、幻影とも思えた山を越えてきているんだ」
俺の後にルシルも続けた。
「ゼロ、上空にいた時は進行方向にまた山が見えていたよね」
「ああ。だが地上に降りた今、同じ方角に山は見えない。これは高さによって見え方が違うというのか」
「そう言う事だけど、山だもんね、変だよね」
「変だな」
俺たちは軽く食事を取りながら地図を見て検討を重ねる。
「あの山の近くにランカの、あのヴァンパイアの根城があると思った。だが出たり消えたりする山となると、行き着くのは一気に難しくなるな」
「そうね。ねえゼロ、あのヴァンパイアはオークの集団を引き連れていたよね」
「ああ。あ、そうか。あのオークどもは流石に隠蔽工作をしないだろう」
俺はルシルと意見を合わせるが、ロイヤにはそれが判っていないらしい。
「なんのことなん?」
「あれだけの集団だ。それに生きて逃げ帰ったやつもいる。となれば、足跡なりなんなり、痕跡が残っているはずなんだ。俺としても今まで気に留めていなかったが、ヴァンパイアの事を探るのと同時にあのオークどもを探っておけばよかった」
「なるほどなん!」
俺は自分たちの拠点の状況と地図に描かれた地形を見て考える。もしかしたら、オークどもの進軍路はここからそう遠くない所にあるのかもしれない。
「……なるべく平地を通るとして、あとは森をどう突っ切るかだが。でもここは草原だからな、なるべくなら背の高い草の間を通りたがるか……いや、集団である事を考えると見晴らしがいい所の方が都合がいいだろうし……」
俺が地図と格闘していると、脇でロイヤがルシルに話しかけていた。
「ゼロちゃんはなにをブツブツ言っているなん?」
「あれはね、言葉にしながら思考を整理しているのよ。言語化することで存在力を高めて、具体的に物事を配置するのに使うらしいんだけど……詳しい所は私も判らないのよね」
「ふぅん。難しいなん」
まあ言いたいやつには言わせておこう。確かに考えを口にすると頭の中が整理できるように思えるんでね。
「なあルシル、草原だとあれだけの集団が通れば足跡というか、草の折れ方とかで集団が通ったとか判るよな?」
「そうね、私はレンジャーの事はよく判らないけど、判る人には判るんじゃないかしら」
「ロイヤ、ウィブ、お前たちは足跡とかなにかたどれる能力は持っていないだろうか」
俺は追跡についての能力を二人にも確認してみる。
「ふうむ、儂は判らんのう。空から見て歩いた跡が草原に残っていれば、まあ判る程度かのう」
「そうか。ロイヤはどうだ」
「うん……ロイヤはそういうのよく判らないなん。でも、オークの臭いならもしかしたら嗅げば判るかもしれないなん」
「本当か!?」
「う、でもそんなに遠くまでの臭いはたどれないなん」
「それでもやってみる価値はあると思う。よしウィブ、この辺りを探ってみよう、低空で。行軍跡とかが見つけられるかどうか」
「ふむ、面白そうだのう」
「では休憩の後片付けをしたら出発するか。それまで支度を調えよう」
この辺りの調査をするため、俺たちはまたウィブの背に乗り込んだ。