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精霊界のカケラ

 急に現れた山肌が迫ってくる。普通の山肌ではなく、少し透明感のある山だ。

 空を飛ぶワイバーンのスピードはかなり出ている。このままでは衝突してしまいそうな勢いだ。


「ウィブ、山のあの突起、岩場があるだろう」

「う、うむ」

「そこに着地する事はできるか?」

「判った、少し速度を落とそうかのう」

「頼む」


 ウィブが大きくゆっくり皮翼を動かすと、少しだけスピードが落ちていく。


「ゼロ、急に山が出てくるなんて……私も気をつけていたつもりだったけど」

「俺もだ。周囲は確認していたんだが、雲があったわけでもないのにいきなり山が現れるとはな」


 ルシルも不思議そうにしている。それ以上にロイヤが不安そうな顔で俺たちの服をつかんでいた。

 ウィブが速度を落とすたびに俺たちの身体も前に引っ張られるような感覚を受ける。ウィブに乗っている時は特に感じるが、急激な速度変更や急旋回の時に身体が反対側に引っ張られるというか押しつけられるような感覚だ。


「この感じだと山に激突しないで済みそうだな」


 俺がつぶやいた時だった。


「えっ、山が!」


 ルシルが驚きの声を出す。俺はどうにか声を出さずにいられたが、びっくりしたのは同じだ。


「消えた、だと……。その向こうにまた山が。同じ形……」

「これ、逃げる山なのかなん……」


 ロイヤが俺たちの気持ちも代弁してくれた。

 逃げる山。追いつけない山。俺たちは地図職人に訊いていた話を思い出す。


「これが、その山か……」

「ゼロ、地図の荒野はまだ先みたいだけど、このまま進んでみる?」

「ああ、まずはそれしかないだろうな」

「ちょっ、待って!」


 ルシルは俺の腕を引っ張る。前を向いていた俺はルシルの手元に視線を移した。


「これ……光ってるよ」


 ルシルの持っていた銀枝の杖に飾り付けられていた宝玉の一つが淡い光を放っている。

 だが光りは段々と小さくなり、消えてしまう。


「この宝玉は?」

「判らない。火でも水でもない宝玉で、空? 空間?」

「そういえばユキネが取り出した時に光っていたのはこの球じゃないか」

「え……だとすると、次元とか世界とか……まさか!」


 ユキネが取り出したのはこことは別の世界空間。そして冥界の伯爵が主に活動しているのも……。


「精霊界……」


 ルシルも俺に同意のようだ。考えてみればさっき消えた山だが、宝玉が光っていた時に通過した位置は仮に山が消えなかったとすれば丁度その場所に当たるんじゃないか。


「あの山は精霊界の残滓ざんし、残りカスみたいなものなのか」

「だとすると山は現実にあって現実にない」

「ああ。存在はしているが、俺たちの世界ではないかもしれない。この先に見える山も透明がかっているが、さっき消えた山よりは存在感がある」

「少し濃くなっている?」

「そのようだな。もしかしたらあの山も消えてしまって、その先に更に山が見えるかもしれないぞ」

「なんだかパイ生地みたいな山ね」


 パイ生地みたいな山、か。なるほどな。俺はタマネギみたいな山って言おうとしたけど、パイ生地の方がなんとなくかわいらしい感じがしたので言わないでおいた。


「パイ、食べたいなん……」

「なんだロイヤ、腹でも減ったか?」


 ロイヤは恥ずかしそうに俺を見る。


「ウィブ、場所の確認と休憩をしたい。地上に降りられるか?」

「ふむ、構わんがのう。まだ日も高いしもう少し行けるが、どうするかのう」

「一旦降りられる所を探そう。高度を下げてくれ」

「承知した!」


 前進しながらもゆっくりと高度を下げていく。低い位置にある雲をいくつか抜けると、地上が近づいてきた。

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