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私兵集団が選ぶ道

 俺が提示した条件を聞いて兵士たちは驚いて言葉も出ない。


「もう一度言う、俺は王国に雇われるつもりはない。あくまで俺の私兵として命令を聞くというのであれば隊を指揮しよう。お前たちの信頼と献身が報酬だ!」


 兵士たちに動揺が広がる。


「王国とは縁を切る事になる。それでもだ、生きて帰りたいか!」


 俺の問いに兵士たちから小さくだが賛同の声が上がる。


「生きて家族を助けたいか!」


 兵士たちから雄叫びが上げる。


「判った、あんたに託そう!」

「生きて帰してくれよな!」

「ようしいいだろう、お前たちを生かして国まで帰してやる。宮殿よりも家族だ、いいな!」

「おう!」


 後ろから追ってくる魔族たちはこの際問題視しなくていい。ルシルたちに魔族の隊の運用を任せているから攻撃される事はないはずだ。

 問題とすべきは王国に入って宮殿へ向かう途中の道。ここは魔族や武装蜂起した連中がいたとしても俺の制御下にはない。場合によっては戦わなくてはならないだろう。


「ゼンさん、やっぱあんたすごいね」


 後方支援兵のヒマワリが俺に近付いてくる。

 ヒマワリのそばかす顔が年相応の少女らしい笑顔になった。


「いろいろ皆には助けてもらわなくてはならなくなるが、いいな?」

「うん、命令してよ。それなら出来ることは全てやるからさ」

「頼もしいな」

「後方支援だけどね、任せてよ!」


 俺はヒマワリの頭をなでてやる。


「ふぁっ、ふにゃぁ……」

「あ、すまない、つい」


 慌てて俺は手を引っ込めようとするが、ヒマワリがそれを止める。


「ううん、なんかお兄ちゃんがいたら、こんな感じなのかなあって思って……」

「そうか」


 少し離れたところで兵士たちの一部がざわついていた。


「どうした」


 何人かの兵士が俺の前にやってくる。


「ぽっと出が粋がってんじゃねえぞ」

「ああ、そういう輩か。全員が好意的とは思っていなかったが」

「そうだな、俺たちは少なくともお前の味方じゃねえ」

「別に構わんぞ、俺の指揮下に入りたくない奴まで連れて行くつもりはない」

「そうは行かないね。王国軍の切り崩しを見逃しちゃあいられねえからな」

「なるほど、それなら王国軍としてお前が指揮するか? それならそれで俺はあえて責任を負わなくて済むから楽でいい。全て任せるから後は好きにしろ」


 俺の指揮を期待していた兵たちから不安そうな表情が浮かぶ。


「俺もこの状況で隊を分ける事は得策とは思えない。お前が全ての兵士を率いて無事に国元まで帰してくれるというのならそれに従うが、どうだ? ただその場合俺はここを離れて勝手気儘な旅に戻るとするよ。王国に立てる義理はないのでな」


 しゃしゃり出てきた男は顔を真っ赤にして震えている。


「ぬぬぬ、なら俺と勝負しろ! 俺に勝ったらぶべらっ!」


 俺は剣を鞘に納めたままの状態で男の頭に叩きつけると、男は鼻血を出してひっくり返ってしまった。

 しゃべっている途中だろうが何だろうが、これくらい避けられないようでは話にならない。


「これは勝負がついたと見ていいのかな?」


 男に付いていた奴らもこの姿を見て首を縦に振る。

 一応これで一人も落伍者を出す事なく目標変更ができた訳だ。家に帰るという目標に。


「ゼンさん、そうなるとあたしたち王国軍じゃなくなるんだよね?」


 ヒマワリが嬉しそうに質問する。


「まあ、便宜上な。正式に除隊した訳ではないから国に戻ってまた軍に所属する事は出来るだろうけど」

「そうか、だったらあたしたちの隊の名前を考えたんだけど、いいかな?」

「なんだ、言ってみなよ」


 ヒマワリは嬉々として叫ぶ。


「おうちに帰り隊!」

「ぶはっ!」


 つい吹き出してしまった。

 それは、どうなんだ……?

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