新しい地図
俺たちは数枚の地図を見比べる。今に近づくほど未開の地が減って、土地が明らかになっていくのが判った。その中で未踏の地ではあるものの遠くから見える物はいくつか記載されていた。
遠方に見える山々などだ。
「だが……この地図を見てくれ」
俺は違和感を覚えた地図を机の上に広げて皆に見せる。
「二年前、くらいかしら。当然最近判明した地形や町は描き加えられていないけれど」
ユキネが地図が作成された頃の状況を説明してくれた。
「ではこの地図よりも古い物は?」
「えっと、これ……かな」
地図の汚れ具合などはそれほど変わらない。紙質も同じくらいに見える。
「こことここの町、それからこの海岸線はまだこの頃には発見、というか認識されていなかったから描かれていないんだけど」
「ではもう一度この二年前の地図を見てくれ」
皆が地図をのぞき込む。
「ユキネが言う通り、町と海岸線は新しく描き加えられている。だがそれ以外にも違う部分がないだろうか」
装丁や地図の周りを縁取る模様などはその地図や時代によってまちまちで、それぞれに個性が光る。
「未開の地の部分は、地図職人が好き勝手に描く物だから、いろんなデザインや文様が描かれているけど。それ以外は正確性が求められるから、地名とかの書き文字の書体は違っていても内容は同じのはずよ」
「そうね、縮尺の違いはあるけどこうして二枚重ねて透かしてみたら町の位置とかはだいたい同じ比率になっているみたいだけど」
ユキネもルシルも地図をいろいろな角度で見ているが、地図として描かれている部分におかしい所は見つけられない様子だった。
「ねえゼロ、もったいつけないで教えてよ、おかしいって思うところ」
「俺が言いたいのは地図の中身じゃなくてだな……ここだ」
俺は地図の端、地名や土地などが描かれていない模様の部分を指さす。
「別にこれ、外側を飾っている絵よね?」
「ああ。だが要素としてはどうだ」
「要素……? あ!」
ルシルは気付いたらしい。もっと古い地図を漁って見比べる。
「山! 山がない!!」
「そうだ。昔の地図には山がないんだ。この北西の辺りにな」
ユキネが新しい地図と古い地図を見比べいてた。
「でも、確かに北西の辺り、未開の地の外縁で山が描かれているけど、地図の職人が模様として描き加えたにぎやかしの絵なんじゃ……。ほら、この地図なんて南の端には海竜みたいなモンスターが描かれているし、こっちの地図には東の海の先には大きな崖になっていて海の水が流れ落ちている絵になっているよ」
「ああ。だが、二年前の地図から最新の物には、必ず北西に大きな山が描かれている。描き方はまちまちだが、そこに大きな山があるという事はどの地図にも記されているんだ」
ユキネは手を口に当てて目を見開く。
「ほ、本当だ……。別に地図職人が示し合わせたわけでもないでしょうに、北西の大きな山だけは描かれるようになった……ここ二年間だけ……」
そうだ、それよりも前の地図には北西に山なんて描かれていない。それこそモンスターや星の絵が描かれているばかりだった。
「でもそれって、最近になって山が見つかった、遠くから見えるようになったっていう事なんじゃ……」
「俺もそう思ったんだが、北西は結構地図に細かく描き込まれているからな、そこまで開拓した場所から見て大きな山の存在を知らないわけもないと思ってな」
「ちょ、ちょっと待って! それだったら地図職人の工房へ行ってこの山の話を聴いてみようよ!」
「近いのか?」
「一番近い工房はこの研究室からそう遠くないから!」
俺たちはユキネにうながされるまま、地図工房へと向かった。