なめなめしてみる
ロイヤにレッドドラゴンの皮を渡すと、惚れ惚れした様子で皮を眺めていた。
「これがレッドドラゴン……。ロイヤの一族だけでは触る事もできない逸品なん……」
なるほど、確かにコボルトたちではどれだけ集まったところで、あの凶暴でうたわれたレッドドラゴンを倒す事などできようもない。一族の悲願という訳でもないだろうが、伝説の火蜥蜴の皮を手にしたロイヤは感動しっぱなしだ。
「ねえゼロちゃん、これ、ロイヤに任せてくれるなん?」
「そのつもりだ。ロイヤが一族から受け継いだ話を現実にするためにも、これを使ってくれ」
「わぁ! 嬉しいなん!!」
ロイヤは跳び上がらんばかりに喜ぶ。そして緊張した面持ちで俺を見た。
「使わせて、もらうなん」
そう宣言するとすぐに作業を始める。その顔は既に喜ぶ少女のものではなく、熟練した職人のものだった。
「水を」
「どれだけいるかな」
「いっぱい、とにかくいっぱいなん」
ふむ、水か。
「ユキネ、この辺りに水源はあるか?」
「う~ん、山の雪解け水が湧き出したりして、ある程度水は豊富な方だと思うけど、それでも井戸を掘らないと。それかエイブモズの町に行って井戸を使うか、かしらね」
「ロイヤ、井戸水で足りそうか?」
ロイヤは首を横に振る。どうやら井戸水を汲んでいくくらいでは間に合わないらしい。
「近くに川でもあればいいんだがなあ。仕方ない、Sランクスキル発動、剣撃波! 地面をえぐれ、剣圧で坂を作れ!」
俺は剣を抜くと地面に大きな溝を掘る。スコップなどで掘るよりも簡単に削れるし、なによりも剣圧で地面が固まる。
「ルシル、頼む」
「いいよ。Rランクスキル海神の奔流」
掘った溝にルシルが水を流し込む。これで簡易的な川のできあがり。
ルシルが流水を出せばその分水かさが増す。これで好きなだけ水が使えるというものだ。
「ありがとうなん、これで皮のなめしができるなん!」
ロイヤは裸足で川の中に入って、ドラゴンの皮を水の中で揉んだりゆすいだりしていた。
「ゼロちゃん、草とか木の実とか、渋い物が欲しいなん」
「草? 木の実?」
「なるべく色の濃いやつの方がいいなん」
「ふむ、植物は流石にスキルでは生成できないなあ。ユキネ、心当たりはあるか?」
尋ねてみてもユキネは考えるばかりだ。
「そうねえ、あんまり渋いのは……ん? あ!」
「お、なにか思いついたか?」
「う、うん……。渋いというか、ちょっと持ってくるから手伝ってもらえる? 樽いっぱいにあるんだよね」
「おう、なにかは判らんがそれが使えるかどうか、持ってきてロイヤに見てもらおう」
「だね。じゃあルシルちゃん、ゼロくんをちょっと借りるね」
「すまんルシル、取りに行ってくる」
俺はユキネの後を付いてエイブモズの町へと向かう。
「早く戻ってきてよね」
「すっ飛んで帰るさ」
水を出しっぱなしにしているルシルに悪いからな、ユキネの思いだした物を早く持って帰るぞ。
「それでユキネ、その渋い物っていうのはなんなんだ?」
「う~ん、まあ来てみれば判る、かな」
振り向いたユキネの髪からふんわりといい香りが漂った。
俺はその香りに気付かないふりをして、ユキネを小脇に抱えて走る。
「ちょっとつかまっていろよ。Rランクスキル発動、超加速走駆。瞬発力を抑え気味にして長距離を速く……」
普通に走るよりも断然速い勢いで俺は駆け抜けた。
「ね、ねえゼロくん」
「なんだよ」
「あのワイバーンに乗った方が速いんじゃないの?」
「馬鹿言え、ウィブを連れていったらまた町が騒ぎになるんじゃないか? 面倒になるのはごめんだからな」
「う~ん、ま、そうかもね」
俺に抱えられながら、ユキネが俺にしがみつく。
大きな胸が俺の腰に当たるが、気にしないようにした。なんせ相手は百年以上も生きている喰らう者なんだからな。
「あ、生きているというのはどうなんだろ」
「なんか言った?」
「別に」
俺はもごもごと言葉を濁してごまかす。目の前には町の門が見えてきた。