死後も維持するために
今更ながら大きい。目の前で見ると、破片といってもここまで大きいのかと思った。俺の背丈は優に超える大きさだ。
まあ、大人の背丈の十倍はある巨人を見た後ではこれでも小さいくらいではあるのだが。
「あれから三年は経っているのに、それでもまだ凍っているのか」
このレッドドラゴンはウィブを追ってきたりなんだりと紆余曲折はあるが、俺が凍晶柱の撃弾で凍らせ、破砕したのだった。
「あの時の凍晶柱の撃弾がまだ残っているというか、溶けていなかったのだな」
レッドドラゴンの破片近くに降り立った俺たちに誰かが近付いてくる。
大きな胸を揺らして駆け寄ってきたユキネが俺に抱きついた。
「久し振りね! 元気だった!?」
ユキネは満面の笑みで俺たちを迎える。ユキネからふんわりといい匂いが漂う。
「あ、ああ。どうにかやってきたけどな、少し対応に困って学術都市であるエイブモズを思い出したんだよ」
「なんだ、私を忘れられなくてやってきたのかと思っちゃったよ」
ユキネは身体を俺に押しつけながら嬉しい事を言ってくれた。
「あー、ごほん。ユキネ、久し振り」
「ルシルちゃん、ど~も~。元気だった!?」
ユキネは俺から離れてルシルに抱きつく。
「うっ、ユキネ凄い匂いがする……これってもしかして」
「あ、判っちゃう? そうかぁ、流石にルシルちゃんは女の子だね」
ルシルとユキネの会話に割り込んでみる。
「え、どういう事だ? いい匂いじゃないか」
「それはそうよ。いい匂いだけど強い匂いっていうのは、臭み消しの役割だったりするのよ」
「臭み消し……? あ……」
ルシルもそうの言わなければいいのに。ほら、ユキネが少し恥ずかしそうにもじもじしているじゃないか。
「喰らう者は動く死体の一種だからな、人間の意識を持つ動く死体と言うか……」
防腐処理のためのこの匂いだったわけだが。
「ははっ、最近は特に匂いがきつくなってしまったのよね。ごめんねぇ~」
「あっけらかんとしているなあ。でも済まん、なんだか気を使わせてしまって」
「いいっていいって。これも喰らう者を続けていたら突き当たる壁だから」
そう笑って受け流すが、なんだか悪い事を言ってしまったなあ。
「えっと、本題に移ろうか」
俺は無理矢理にでも話題を変える。
「レッドドラゴンの破片、これはまだ凍ったままなんだな」
「うん、そうなのよ。太陽に照らされても溶ける様子がまったくなくってさ」
「凍晶柱の撃弾の効果だったら、俺の放った魔力が消費されて凍結を維持できなくなったら溶けるはずなんだがな」
「そうなの、そこなのよ。私も学術都市に住む者ですからね、その辺りの事をいくらか調べたんだけど、どうもゼロくんの魔力のせいだけじゃないみたいなの」
「俺の魔力だけじゃない?」
「うん。まあ破片はいくつもあるから、ちょっと試して欲しいんだけど。ゼロくんのスキルでこの破片を燃やしてもらえないかな」
俺のスキル、炎系で燃やしてみて欲しいって事か。
「あ、ああ……いいけど。どれ、試しに、Sランクスキル発動、風炎陣の舞!」
俺の手から炎の渦が巻き起こり、レッドドラゴンの破片を飲み込んでいく。
「やっぱり……」
ユキネがなにか得心いったような顔をする。
「今までなにをやっても溶けなかった氷が、ゼロくんの炎で溶けていくよ」
確かに、今まで氷で覆われていたレッドドラゴンの破片があらわになってきた。生肉のような姿で。