召喚解除と戦いの区切れ目
俺がにじり寄ると、俺の十倍はある巨体のおっさんは足の痛みに怯んだのか俺が進む分だけ後ずさる。
「どうした召喚された巨人よ。俺が恐ろしいか? それとも痛みが怖いか?」
「うっ、小さき者よ、いや、そのなりでその大きさは小さくもないというか、いやそうではない、小さき者よ!」
「命乞いなら認めんぞ。あれだけ偉そうにして俺たちに敵意を向けたんだ。それと同じ、いやそれ以上の敵意をお前が受けてもそれは当然の事だろう?」
右膝からはおびただしい体液が流れ出る。血の赤というよりは溶岩のように赤黒い血液だ。
「ぐ、ぐぬぅ……。儂とて不死の王として長きにわたって世界を治めてきたのだ。これしきの事で……」
立ち上がろうとするが根性だけではどうにもならない。それが身体の作りというものだ。腱を斬られてはまともには立てないはず。
「だが、しかしっ!」
巨人は両手を地面について右膝をかばいながら力を込める。俺は容赦なくその手を剣で串刺しにした。
「ぐうっ! ぐふぅっ!!」
「悲鳴を上げないとは見上げたものだな」
「ぐぐぐっ……。ふむっ!?」
今まで苦しんでいた巨人の顔が一瞬歪む。身体が段々透けてくる。
「またなにかしようってのか!」
「ふーっふっふっふぁ! 儂の孫娘をかたるあの者が儂の召喚範囲より外れたようだなぁ」
「なっ、しまった! あいつは、ランカはっ!?」
召喚者がこの場からいなくなった。そうして召喚者の力が及ばなくなったとなれば……。
「儂はまた冥界の闇へと戻るとするかねぇ……ぶるわははは、小さき者よぉ、久し振りの戦いに胸が高鳴ったわぁ!」
巨人の身体が陽炎のように揺らめき、透き通っていく。
「くそっ!」
俺は剣を振り回すが、巨人の身体をすり抜けるばかりでまったく効き目がない。
「ここまできて逃す事になるとはっ! くそっ!」
「そう焦る事もあるまい小さき者よ、そなたとはまた相まみえようぞ! ぶわぁははは!!」
巨人が笑い声を残して消えていった。
もうこの状態では生き残っているオークどももいない。全員散り散りに逃げ去ったのだろう。
「ゼロ……」
「大丈夫かルシル」
ルシルに肩を貸して支えてくれるのはコボルトのロイヤだった。
腹を押さえながら俺の所に来たルシルは、今の様子を見て戦闘に一区切り付いた事を悟る。
「ゼロちゃん、あの巨人、召喚巨人の本体は冥界の闇に守られているなん」
「知っているのかロイヤ」
小さくうなずくロイヤ。犬耳はピンと立っていて、決意の強さを感じさせる。
「あれはドラクール。冥界の伯爵と呼ばれた巨人なん」
「冥界の伯爵……」
「ランカはその血を引いているという噂を聞いた事があるなん」
そうなのか。今までとは毛色が違う相手だとは思っていたが、冥界の者だったという事か。
「ゼロは冥界の、というより幽霊が怖いからね」
「う、うるさいっ。あれはだな、俺でも傷を付けられたんだ。幽霊とは根本が違う! きっとそうに違いない!」
それに、俺には超覚醒剣グラディエイトが手元にある。これならあの半霊体の巨人にも対抗できる! そうだ、俺ならあいつを倒せるんだ!
「なんだか独りで盛り上がっているみたいだけど、倒す算段はできたの?」
「この剣でどうにかするさ!」
「行き当たりばったりって事ね」
そう言うなよ。確かに俺だってもっと確実性の高い戦いをしたいんだが。
「それなら、もしかしたらあれが使えるかもしれないなん」
俺たちはロイヤの口から驚きの内容を聴いた。