透き通る硬い奴
巨大なおっさんは大きいだけあって力も結構なものだ。しかも攻撃には魔力が付与されている。
「ルシルっ、大丈夫か!」
吹っ飛ばされたルシルはかろうじて上半身を起こすと、小さく手で丸を作って俺に大丈夫だという合図を送ってくれた。
「こいつはここでどうにかしなくてはならない。単純な物理攻撃ではないが、足を攻撃できたという事は……倒す手段はあるっ!」
俺は巨人に向かって走り出す。相手が大きいだけに距離感がつかみにくい。
だが、鉄巨兵と同じくらいの大きさであれば当時の勘を取り戻せばどうにか戦える。
「奴は右腕を失っている。俺の攻撃で消滅したと言っていたな。であれば、だ!」
俺は大きく剣を振りかぶって狙いを定めた。
「SSランクスキル発動、旋回横連斬! 斬り刻め回転の刃よっ!」
自分を独楽のように回転させて何度となく剣で斬りつけるスキルだ。手数であればかなりの傷を負わせる事ができるはず!
「だが効かぬなぁ……」
巨人は事も無げにそうつぶやく。
俺は瞬時にその意味を知る。
「なにっ! 奴の足を……すり抜けただとっ!」
俺の剣撃は全て陽炎の中で踊っているように奴の足を通過する。当たれば無数の傷が生じるはずだったがその全てがだ。
「馬鹿なっ!」
突っ込んだ勢いで巨人の足を通り抜けた俺は、たたらを踏んでどうにか転ばないようにこらえる。
「甘いな」
俺が背を向けた一瞬、巨人の左腕が俺の背中に直撃した。
「ぐはっ!」
肺の中の空気が一斉に吐き出される。肺に傷を負ったのか、吐く息に血の匂いが混ざる。
「や、やりやがったな……」
だがどうも判らない。俺の攻撃はすり抜けるのに奴の攻撃は俺に当たるのだ。
「くっ、まだまだっ! Sランクスキル発動、剣撃波! 物理的な攻撃が駄目でも剣撃ならどうだ!」
俺の振った剣先から真空波が飛び出して巨人に向かう。
苦手な霊体にでさえ魔力を含んだ真空波であればダメージを与えられた。
「これならっ!」
「無駄よの」
簡単に左手で払う仕草をすると、俺の放った真空波が弾き飛ばされてしまう。
「なっ、こいつはいったいなんだ! 剣も効かない、衝撃波も駄目とくれば……SSSランクスキル発動、地獄の骸爆! 炎の爆散をもって敵を破壊しろっ!」
俺の手から巨大な炎の塊が飛び出し、巨人の身体に当たる。瞬時に巨人を中心に爆発が起きて辺りに爆風が広がった。
もうもうと漂う土煙の中、そこに見えるのは大きな影。
「面白い技を使うのう、そこの小さき者よ」
「き、効いていないのか……」
「なくは、ないかな。だが儂を倒すには至らぬようだ」
巨人はゆっくりと左手を挙げる。
「それにな、地獄の業火というものは……こういうものであるっ!」
巨人の左腕に炎の渦が天に向かってそびえ立った。
「食らい、滅せよ!」
振り下ろされた炎の渦が剣のように俺を襲う。