先祖の召喚
巨大。何もかも巨大だった。人間の十倍の背丈はあるだろうか。
「これは……鉄巨兵にも引けを取らない大きさだな……」
巨大な男、年齢としては壮年といったところか。若くはない。だが年寄りでもない。働き盛りの男盛りな見た目だが、ただとにかくでかい。
「儂の可愛い小さき者からお呼びがかかったと思って出てみれば、右手を潰されてこりゃ困ったとなあ」
割れ鐘を響かせるような大音声で巨大なおっさんが吠える。おっさんとしては普通にしゃべっているのだろうが、こちらからすればただの爆音に過ぎない。
「おじいさまっ! 我の召喚は失敗してしまったものと思いましたのに!」
「おう、そなたが孫娘か、小さき者よ」
「はいっ、我がおじいさまをお呼びいたしましたランカにございます!!」
大きな後ろ盾ができてからだろうか、ランカが一気に元気を取り戻す。
「おうおう、儂を召喚したそなたが言うのだ、孫娘に間違いはなかろうて。ぼーっほっほっほ!」
突然現れた巨人は豪快な笑いで辺りを震わせた。
「して小さき者よ、儂になにを求めるかぁ」
「おじいさま、おじいさまにはそこな者を成敗していただきとう存じます!」
「ほう、成敗とな?」
「はいっ!!」
召喚だかなんだかいきなり呼び出されたこの巨人も対処に困ると思ったが、そうでもなかったらしい。
「よかろう! 儂を呼びし自称孫娘の頼みであぁる、叶えてしんぜよう!」
想定外だ。この巨人はランカの事を鵜呑みにしただけでなく、俺たちに向けて拳を振り下ろしたのだ。
「なっ、避けろっ!」
俺たちは蜘蛛の子を散らすように巨人の拳から逃げる。
巨人の左腕が俺たちの屋敷に向かって振り下ろされた。
「それは円の聖櫃で物理的な攻撃は一切受け付け……んなっ!?」
巨人の攻撃が円の聖櫃を易々と突き抜け俺たちの屋敷を粉々に叩き潰す。
「魔力を帯びた攻撃、いや、こいつ自体が魔力で召喚されたから魔力そのものと言ったところか!」
繰り出される巨人の攻撃。左腕を叩き付けたかと思うと、次は足を踏みならす。潰されないように全速力で逃げ回らなければならない。
「物理完全防御の円の聖櫃を突き破るとなると、単なる肉体ではないな……だがっ! Sランクスキル発動、剣撃波! 突き立てよ剣撃の刃っ!」
俺は衝撃波を発生させて巨人の足を攻撃する。魔力を帯びた身体であれば通常攻撃は効かないかもしれない。そう思って俺は魔法の身体にも有効な剣撃を放った。
「ぐわぁっ、痛い、痛いなぁ!」
効いた! 少なくとも巨人のスネは深くえぐられている。
「うう、痛いよこれはぁ。儂が鍛えていたとしても、スネは痛いなぁ」
どこか他人事のような口ぶりで巨人が右スネをさすりながら痛みに耐えていた。
「こういうことをしてはいけないって……」
振りかぶる巨人の左腕。
「親に習わなかったのかねぇ!?」
横薙ぎに払った腕が、ルシルを弾き飛ばしていた。