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王の加護

 胸を押さえるランカ。

 ロイヤは俺にしがみついて震えている。俺はロイヤを落ち着かせるように頭をなでた。


「な、なぜだ……」


 ランカは状況の変化に戸惑い、恐れ、おののいている。


「判らないなら教えてやろう」


 俺はランカに剣を突きつけながら、真っ直ぐ目を見た。


「ルシルのかけた大罪の清算ジャッジメント・ギルティは、ルシルの仲間やその仲間が認めた連中に危害を加えたら、という制限がある。敵と味方の区別だ」

「うっ……それは……」

「ああ。ルシルは俺とその仲間という範囲で限定していた。だが俺は無制限に対象を広げる訳にも行かなかったんでな、一つの基準を設けた」

「それが、まさか……」

「そうだ」


 俺はロイヤを見る。ロイヤは安心したように信頼の眼差しを俺に向けた。


「俺を王として、国の民であるかどうか、だ」

「民……」

「もちろん、国民全員にまで範囲を広げられる程スキルの能力は強くない。いや、逆にスキルの能力が強いからこそ、範囲は限定的にならざるを得ない」

「であれば、このコボルトは」

「ああ、今、俺の国民になったという事だ」


 苦しさと悔しさに歯噛みをするランカ。


「ぐ、ぐぐっ……だとすれば我はこの犬っころすらも手にかけられない、そういう事なのだな……」

「その通りだ」


 ランカはこの場にいる俺たちには危害を加える事ができなくなったという事だ。


「で、では、その犬、いやコボルトはもう解放した。我はもうここから去ってもよいのだな?」


 ランカは哀れな顔つきで俺を見る。恥も外聞も捨てて、媚びへつらう顔だ。


「それは駄目だろう」

「な、なぜ……」

「なぜってもう状況が変わっている。お前は交渉を拒否したのだぞ。それを立場が悪くなったからと言って手のひらを返すような話が通るわけがないだろう」

「だ、だが……」

「お前はそうやって相手の立場が悪くなった時に、命乞いを認めてやった事はあるか?」

「へっ?」


 ランカは突然の質問に戸惑う。


「命乞いをする奴を助けたりはしないだろう。俺はお前に何度もチャンスをやったつもりだ。逃げて俺たちと会わないようにすればその命は失われずにいられるようにと」


 そう、心臓にくさびを打ってしまえば俺たちに刃向かう事は自殺と同じ。それこそ死ぬ覚悟でもなければ俺たちは安全だと思っていた。

 だが、ランカはオークどもを引き連れ俺たちを倒そうとしたのだ。


「ランカの手下になった時点でこのオークどもの命数も尽きたという事なのだがな……」


 辺りを見回せば、まだそれなりのオークが周りにいる。結構な数が逃げ出したようだが、それでもランカに付き従うのか、逃げる判断ができなかったのか、勝ち目のない戦場に残っていた。


「目を見れば判るが、こいつらは戦いの矜恃きょうじがあってここに残っているようでもなさそうだな」


 数百程度のオークであれば、まさに鎧袖一触がいしゅういっしょくで片付ける事ができる。


「と、いう事だから、お前たちはここで死んでもらう。後顧の憂いをなくすためにもな」

「ひいっ……」


 オロオロと右往左往するオークども。ランカは頭を抱えて小さくなる。

 そこへにわかに辺りが暗くなり、霧とも煙ともつかないもやもやしたなにかが周囲に広がった。


「ほほう、こやつが儂の右手をすりつぶしてくれおった奴かぁ」


 はるか頭上から雷鳴のような声が聞こえる。


「小さき者よ、待たせたなぁ」


 もやもやの中から飛び出してきた顔は、大人の頭の十倍くらい大きなものだった。


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