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助ける範囲

 ランカは人質に取ったロイヤを抱えながら穴から這い出し、爪を突き立てながらじりじりと後ずさっていく。


「ゼロちゃん……ルシルちゃん……」


 泣き出しそうな大きな瞳が俺を射貫く。ふさふさの犬耳が悲しげに垂れていた。


「わ、我の命がこの犬ごときに委ねられているとは情けないがな、そんな事も言うてられんのでな。このまま引き下がらせてもらうぞ」


 ランカは俺たちをにらみ距離を取る。ある程度まで行けば血だまりか煙か、それこそコウモリにでも化けて逃げられると思っているのかもしれないが。


「判ったランカ、お前の命は保証しよう。だからロイヤをそれ以上傷つけずに解放しろ」

「阿呆め、そんな口車に我が乗るわけあるまい! この犬っころを手放せば我を殺しにかかる事は明白ぞ!」


 これでは平行線だ。俺の言葉を信じることができないランカにしてみれば、こんな提案は何の約束にもならない。折角手に入れた人質だ、そう簡単には手放さないだろう。

 それに問題はロイヤだ。


「どうするのゼロ、このままロイヤちゃんを連れて行かれちゃったら、無事に解放されるかどうか判らないよ」


 ルシルが言うことももっともだ。俺たちだってランカの行動は予測も付かない。安全が確保できたところでロイヤを解放してくれるのか。仮にランカがそう言ったとして、俺たちはそれを信じる事ができるだろうか。


「このままでも信じてはもらえず、逃がしてもロイヤが無事でいられる可能性がどれ程あるか……だったら今この場で」

「おおっと、余計な真似はしない事だな。我とて生を終えたくないが、討たれるとしてもこの犬くらいは死出の道連れにしてみせるぞ!」


 ランカは尖った爪をロイヤの顔に近付ける。爪の尖った先がロイヤの緊張で青ざめた頬に触れた。


「いひぃっ!」


 ロイヤの頬から一筋の血が流れる。


「ほらほら、我が安全だと思うまでお前たちは一切動かない事だ! いいな! このコボルトの命はお前たちの行動にかかっておるのだぞ! ふぁーっはっはっは!!」


 俺もルシルもその言葉で身動きを封じられたも同然だ。

 この場の勝利、己の命が保全されたという事について、ランカは焦りの中にも満足そうな表情を見せる。


「判った、俺たちはお前が視界から消えるまで動かないようにする。だからロイヤを放してくれ」

「何度も言っているだろう。我が解放してもよいと思うまではこのコボルトは連れて行くぞ!」

「くっ……」

「さあさあ、せいぜい我が立ち去るまでそのままでおれよ、動く事は許さんぞ!」


 交渉は決裂か。

 俺は大きなため息を一つ吐き出す。


「いいだろう。好きにしろ。だが一つだけ言っておく」


 俺は言葉を止めて大きく息を吸い込んだ。


「俺はレイヌール勇王国初代国王、ゼロ・レイヌール! ロイヤよ、我が臣下となれ!!」


 突然の宣言にランカは不意を突かれるが、それでも平静を取り戻す。


「いきなりなにを言うかと思えば、この犬っころを臣下にするだと!? だからなんだと言うのだ、この犬は我が殺してしまうかもしれないのだぞ!」

「お前には言っていないランカ。俺が臣下に迎えたいのはロイヤだ」

「ぐっ、ではお前の臣下になる前に我がこいつの喉笛を掻き切ってやろうか!」


 威勢がいいのは今の内だ。


「どうだロイヤ」


 俺は大きく見開かれたロイヤの瞳に訴えかける。その瞳から大粒の涙がこぼれていた。


「あい、ロイヤはゼロちゃんの臣下になるなん……。ロイヤの王様になってほしいなん……」

「よく言ったロイヤ。これよりお前は俺の家来だ!」


 そう宣言した瞬間だった。


「う、うぐっ!」


 想定通り、ランカが胸を押さえてうずくまる。


「ばっ、馬鹿なっ……」


 苦しそうにもだえるランカが俺とロイヤを交互に見た。


「いや、俺の考え通りだよ」


 俺はランカの手から離れたロイヤを抱きかかえると、ランカの首筋に剣先を向ける。


「どうやら立場が逆転したようだな」

「くっ……」


 うずくまるランカは、悔しそうに俺を見上げていた。

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