王国軍と魔族の軍団
「ひいっ、ひいっ……」
王弟ゴーヨックは醜い肉の塊を椅子の上に固定されてまともに動くこともできない。
その顔は俺の手にした聖剣を見て、恐怖と絶望に歪んでいた。
「いいか、人を虐げる者は己が虐げられる覚悟を持つ事だ。人を殺める力を持つ者は己も殺されることがあると思え」
俺は言葉一つ一つに力を込め、その度にゴーヨックの身体へ聖剣で小さい傷を付ける。ほんの少しの傷でも安穏と過ごしていたゴーヨックには死を感じさせる痛みに思えたようだ。
「覚悟が無いくせに人を殺そうとし、自分は安全な所でのうのうと高みの見物。生まれが王家だったというだけで己を特別と考える。特別だったのはお前ではない、国を建てたお前の祖先が特別だっただけだ」
俺はゴーヨックの右耳を斬りつける。耳たぶがパックリと割れて血が垂れる。
「それをさも自分の力かのように誇示する姿、醜悪で鼻に付くわ!」
「ひいぃー!」
獣の断末魔のような絶望に打ちひしがれた声を上げる。
「何でもします、何でもしますから! どうか!」
「そう言った相手を何人許した?」
「ほえ」
聖剣グラディエイトを一瞬だけ振るう。
「そ、しょんなの一人も助けてなれれ?」
ゴーヨックの首に赤い線が浮かび上がり、その線に沿って頭が前にずり落ちる。
「ほびゅー」
呼気と共に言葉にならない音を発してゴーヨックの首が地面に落ちた。
「ルシル、チュージ、王弟の首を持って行け。後は示し合わせた通りに」
「判った。ゼロも気をつけて」
「ああ。魔族の軍団は頼んだぞ」
「任せて!」
俺はヒルジャイアントのドッシュたちが暴れている混乱を使って天幕からルシルとチュージを逃がす。
「雷に打たれて王弟閣下がお亡くなりになったぞ! ここはもう駄目だ王都へ逃げろっ!」
天幕から出た俺は混乱する王国軍へさらに混乱する要素を投げ込む。
「殿下が!?」
「ジャイアントをどうにかしてくれ!」
「もう駄目だ、死ぬんだー!」
俺はドッシュたちを探す。流石に頭一つも二つも高いヒルジャイアントだけあって、すぐに場所が判った。
「皆逃げろっ! 俺がジャイアントの相手をする!」
「いいのか、あんた旅の戦士だろ!?」
「その代わり報酬ははずんでくれよなっ! さあこっちだ巨人ども! 力比べなら俺が相手になってやるぞ!」
俺は挑発の振りをして巨人たちを呼び込む。
俺が王国軍と魔族の軍団がにらみ合う平原の中間地点に行き、そこへ巨人たちもつられたように飛び出してくる。
王国軍は俺が巨人たちを野営地から連れ出してくれたと思っているらしい。
「さてと。ドッシュ、ボッシュ、イチルー」
俺は剣を構えながら王国軍の兵士たちには聞こえないくらいの声で巨人たちに話しかけた。
「へい親方、助けてくれて、ありがとう、です」
片言だが共通語の話せるドッシュが返事をする。拳を握って俺をにらみながらなので、外から見れば戦いのために間合いを取っているように見えるだろう。
「本拠地に戻る事は難しい。シルヴィアたちは城塞都市ガレイへ避難してもらった」
「無事だったんですかい、それはよかった。あっしらも心配していましたんで」
「お前たちが囮になってくれたおかげだよ」
「いえそんな、戦闘力と自然治癒力が高いあっしら、どうとでもなりますって」
「だが、窮屈な思いをさせたな」
「今まで村の仲間、いっぱい殺されたよりマシでさ」
戦っている振りをしながらもお互いの状況を確認する。
「今ルシルたちが魔族の軍団をまとめてくれるように頼んである。魔王不在で統制が取れなくなった魔物たちに王国軍がその根城も含めて殲滅にあたっているという事から、もう逃げられないところでの蜂起という事までは理解している。だからお前たちは安心して魔族の軍団へ行けると思っているがどうだ」
「それは、うれしい。あっしらこのままだと行くとこ無い、思ってた」
「よし、ここは俺が引きつけたから王国軍に被害が増えなかったという事で決着させる。お前たちは向こうの魔族の軍団へ行ってくれ」
「判りやした、親方」
ドッシュたちは俺と数回戦いの振りをして剣を振り回したり拳を地面に叩き付けたりしながら、段々と距離を取っていく。
「今だっ」
俺の掛け声をきっかけにしてドッシュたちヒルジャイアントは魔族の軍団が待機してる方向へと走り去っていった。