頼りの祖父とハンド
ランカは大罪の清算のせいで直接俺たちに攻撃を加えられない。そこでどうしたかというと、大量のオークどもをけしかけるか、こうやってなにかを召喚するしかないのだが。
「さあお救い下さいませ、おじいさまっ!!」
ランカが手を当てた地面が盛り上がっていく。山のように膨らんだ地面から巨大な手が生えてきた。
「あ……」
俺は気付いてしまったが、このオークどもが踏み荒らした場所、そしてランカがなにかを呼び出した場所。
ここは俺とルシルが精魂込めて作ってきた畑。
早く成長するハーブも収穫時期だし、芋も葉っぱが大きく広がっていて、どんどん栄養を溜めようとしていた頃だ。
「あ、あ……」
オークどもに踏み潰されたハーブ、ランカが呼び起こそうとした奴が掘り起こした芋……。まだ成長途中で小さい芋の状態なのに地面から引き剥がされてしまったのだ……。
「さああのにっくき人間を打ち倒して……」
「うるせぇ!!」
ランカが詠唱だかなんだかを言っているが、それどころじゃない。
「SSSランクスキル発動、重爆斬! 酷いことをしやがって!!」
俺は地面から生えてきた巨大な手を力一杯ぶった切る。押し込んだ剣撃は手を地面ごと押し潰して巨大なクレーターを作った。
「ええっ!?」
なにかを召喚しようとしたようだが、その召喚される土台ごと破壊したわけだ。そりゃあ驚くのも無理はない。
「おじいさまっ! おじいさまっ!!」
どうやらランカの祖父なのだろうな、あの手は。それか祖父の扱いをしていた何かなのか。
「だがどうせ、ろくなものでもあるまい。人差し指だけでも俺の背丈くらいはあったからな。ヴァンパイアの祖父とかそういうレベルじゃないだろう」
「それよりもゼロ、畑を荒らされたのは怒ってもいいと思うけど、土をここまで圧縮しちゃうと、また耕すのが大変だよ」
「う……」
ルシルには俺が怒る理由なんて簡単に判っちゃったんだろうな。ちょっと恥ずかしい。
「くっ、よくもおじいさまを……魔王の手の召喚を邪魔したなっ!」
ランカは胸を押さえながら俺に向かって罵声を浴びせる。あまり敵意を持ってしまうと心臓が破裂してしまう。その苦しみを抑える理性と相反する感情がランカの中ではせめぎ合っているのだろう。
「それにしてもルシル、魔王の手とか言っているぞ」
「そうね」
「いいのか?」
「うーん……」
ルシルの複雑な心境が顔に出ている。眉間に皺を寄せて右手で顎をなでながらルシルは考えているのだろう。
「まあ、魔王なんていっくらでもいるでしょうからね。好きにさせてあげればいいんじゃない?」
「そうなのか?」
「だって魔王っていったって魔族の王でしょ? 人間の王だっていっぱいいるんだから、魔王が何人もいたところで、しょうがないわよ」
ああ、そういう感じなのか。まあいいか。確かに人王、というか人間の王も一人じゃないからな。そういう解釈なら別に構わないだろうな。
「それはともかくさ、ゼロ」
「おう」
「あの小娘のジジイかどうかなんてどうでもいいけど、私たちに向かって敵意を持っているってなるとさ、もうやっちゃってもいいよね?」
「なんだ、こっちからどうにかできるのか?」
「できないけどさ、抵抗すれば心臓が破裂する。無抵抗なら私が電撃で真っ黒焦げにする。どっちにしても逃げたまま姿を見せなければよかったのに、わざわざ牙を剥くからこうなるって教えてあげないとさ」
あ、やっぱり魔王を騙られた事に怒っているのかな。
その証拠じゃないけど、ルシルは両手を掲げて電撃を生み出し始めていた。