血の華の宴
数千匹はいるだろうオークどもは、俺の威圧でほとんど戦意を喪失しているように見えた。俺が近付けば間合いを取ろうと下がっていき、後ろの奴とぶつかって転んだりする始末だ。
「先走った奴はいたかもしれないが、話をできるやつはどうだ? いるのか?」
俺が集団に問いかける。
そこへ集団の中から反応があった。
「ぐふふふ……お前偉そうなの、口だけ」
のっそりと集団から頭一つ飛びだしている奴が人語をしゃべる。背も高く、腕回りや腰回りは太く、他のオークと見比べても筋肉量が桁違いに多そうだ。
「ハイオークか」
俺のつぶやきに、しゃべっていたオークが黄色い歯でにやりと笑う。ハイオークはオークの中でも上位のランクに位置するレベルで、千匹のオークの中から戦いで鍛え上げて、それでも出るか出ないかと言うくらいにレアな存在らしい。
「おい野郎ども! オレたち多い! たくさんだ!! あいつ小さい、少ない!!」
ハイオークは周りのオークどもに向かってがなりたてる。鼓舞なのか恐怖の伝達なのか、今まで俺に怯えていた様子が徐々に薄まっていくようだ。
「あんな小さい人間、踏み潰せ! 押し倒せ! 犯し尽くせっ!!」
「おおおーーっ!!」
どうやらオークどもの戦意に火を付けたようで、周りの連中が足を踏みならし剣と盾を打ち鳴らしながら雄叫びを上げる。
「おいおい折角拾った命だ、無駄にするなよな……」
「黙れ人間っ! 弱く小さい人間めっ!!」
どうもこうなったら会話どころではない。だがこのまま包囲を狭められたら屋敷も荒らされてしまうな。
「SSSランクスキル発動、円の聖櫃! 完全物理防御の壁よ……」
俺は背後に向かって半球の魔力壁を作り出す。
「屋敷を覆えっ!」
透明な魔力の膜は虹色に光り、俺たちの屋敷を覆った。
「おごっ、は、入れねぇ!」
「なんだこの透明なの! 武器が通らねえぞ!」
オークどもは円の聖櫃に攻撃をするが、一向に効かない。それどころか虹色の膜が広がるにつれてオークどもを弾き飛ばしていく。物理攻撃を完全に遮断するこのスキルにオークはまったく歯が立たない。
「うわっ、押される!」
「ちょ、下がれっ!」
「押すなよっ!」
いきなり前衛から大混乱に陥るオーク軍。いや、もはや軍隊の体をなしていない、ただの烏合の衆だ。
「これしきのことで混乱するとはな」
俺はゆっくりと剣を抜き、一歩、また一歩とオークの群れに近付いていく。
屋敷へは突入できないことを理解したのだろう。数匹のオークは俺に向かってくる。
「おごらぁ!」
「死ぬぇい!!」
口々にわめき立てながら突撃してくるオーク。
「口から泡を吹いて、なりふり構わず力の限り攻めてこようという気持ちは認めるが……」
俺は向かってくるオークどもに一瞬だけ剣を振るう。
「それにしても弱すぎる」
俺の一撃で目の前にいた数十匹のオークがバラバラに斬り刻まれて肉片と化した。
こうして祭りが始まった。オークの血祭りという宴が。