不承で不肖の孫
ランカは泣き、喚き、辺りの物に八つ当たりを繰り返した。草はなぎ払われ、立っていた木はその蹴りで縦に真っ二つだ。
だが俺には、俺たちにはもう危害を加えようとしなかった。
「はぁ、はぁっ……」
肩で息をするランカ。
「気が済んだか?」
「済むわけないだろっ!!」
即答だった。
当たり散らしていたくせに、少しも気が晴れなかったんだろうな。それも当然か、心臓に爆弾を抱えているようなものなのだから。
「ああ、おじいさま! この不肖の孫はついに敵の軍門に降ってしまいました! 卑怯な呪詛を使われて! 精神的な奴隷として!!」
ランカは空に向かって吠え始める。言いたい事は判るつもりだが、だがその言い方はないだろうに。
「ゼロ……精神的な奴隷だって」
「よしてくれ」
「奴隷のご主人になった気分はどう?」
「やめてくれよ……もう」
俺は泣きわめくランカが落ち着くまで待とうと思っていた。
が、こいつは一向に静かになる気配がない。次から次へを、それこそ呪いの言葉を吐くように俺の悪口やら自分の不幸な境遇やらを叫んでいた。
「ええい、やかましい!」
俺はランカの頭を思いっきり殴る。
「ぐぬぬ……忌々しい奴め……」
ランカは頭を押さえながら涙目になって俺を見上げていた。
「さっきっから気になっていたんだが、おじいさまというのはなんだ?」
「むむむ、我はお前という牢獄に捕らえられた哀れな蝶よ。身体は奪われても心までは支配できぬぞ!」
物騒な事を言うなよ。
「ゼロ、身体は奪われても、だってぇ」
「そう言う所ばかりに反応するなよっ!」
さっきだって精神的な奴隷がなんだとか言っておきながら、心までは支配されないとか、もう面倒くさいなあ!
「話が進まないじゃないか。いいか、こいつはなにかを待っている。俺に攻撃して自爆するでもなく、かといって逃げる様子もない。なにか意図があって時間を消費しているようにしか思えない」
「ゼロ、それってこの子のおじいさんっていうのが助けに来るって思っているの?」
「そもそも今でも生きているかどうか、助けに来るのかどうかというのも判らないがな」
だがランカはなにかを待っている。そう思えた。
「まあいい。おじいさまというのが来るでも構わないし、そうでなくとも一向に構わん。ランカよ、お前の事はもう解放した。自由にしたつもりだ。だからここにいようと思っても、それは自由だ」
「いいのゼロ? そんな事言っちゃって。この子厚かましそうだから、ずっとここにいるかもしれないよ?」
その時はその時だ。どうせ俺たちに手は出せない。
ひとしきり騒いだからだろうか、ランカは毛布にくるまって部屋の隅で小さくうずくまっていた。
「ようやく疲れたか。静かになったな」
「でもさあ、心配だからとっとと追い出しちゃおうよ」
「まあ少し様子を見るか。大罪の清算がかけられているんだ、下手な真似はしないだろうさ」
俺は自分を安心させる気持ちもあって、ことさら安全性について口に出す。
そう、俺は絶対反抗されないと、そう思っていたからだ。