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不幸な降伏

 ルシルの唱えた大罪の清算ジャッジメント・ギルティの放つ光がランカの胸に吸い込まれていく。


「な、なにを……」

「これはお前の呪法に近いスキルだが、多分異なる作用をするのだろう」


 あえて俺はランカの問いをはぐらかして時間を稼ぐ。


「この光りがお前に吸収された今、ルシルの唱えた大罪の清算ジャッジメント・ギルティが効力を発揮する」

「いったい、我になにをしたっ!」

「そういきり立つな」


 耳の奥に痛みを感じた。


敵感知センスエネミーが発動している、お前、俺に殺意を抱いているな」

「当然だっ! この恥辱、晴らすにはお前の命を奪い、魂を食らわねばそそいだことにはならんっ! うっ!!」


 ランカはそうわめくと、胸を押さえてうずくまる。


「だからそう興奮するなよ。今お前にかけた呪詛じゅそは俺やその仲間に対する攻撃を認めないというものだ」

「それって……どういう……」

「お前が俺を殺そうとしたり悪意を持って怪我を負わせたり、要するに俺に敵対する事で心臓が張り裂けてその命を終えるというものだ」

「なっ……!」

「青ざめているな。理解したか?」

「くっ……」


 ランカは下唇を噛んで衝動に耐えていた。


「さっきお前は殺して欲しいと言っていたな。ここまで大がかりな事をしてなんだが、死にたければ死ね。俺に敵意を向けて、俺に攻撃をして見ろ」


 俺は抜き払った剣先でランカを拘束していた革袋を斬り割く。


「ほらこれで自由だ。俺たちに危害を加えない限り、お前の自由にしていい」


 ランカは手足をさすって、自由になった自分の身体を確認していた。


「どうした、これ以上の恥には耐えられないんだろう? ならば潔く死ね。自死しろ。死すらもはやお前の自由にあるぞ!」


 俺の怒声を聞いてランカが縮こまる。


「殺して欲しいのであれば、ほら俺に向かってこい! そうすればお前の心の臓は呪いによって千々に引き裂かれ、呼吸もままならず全身がゆっくりと痺れ動かなくなり、意識とて徐々に遠のいていくその感覚を死の間際に感じられるだろうよ! さぁ!!」


 俺は近くにあった木の杭をランカに投げてやった。先が尖っていて、突き刺そうとすればかなりの怪我を負わせる事ができるだろう。

 それを俺に向けて攻撃すれば、大罪の清算ジャッジメント・ギルティで簡単に死ねる。


「わ、我……が……」


 ランカは木の杭を拾い上げるが、その両手は震えていた。


「覚悟を決めろ! 俺たちを攻撃してその命を尽きさせるか、それとも今を享受して自由な生を望むか!」

「ひぃっ!」


 木の杭が落ちて乾いた音を立てる。

 もはやランカの戦意は喪失していた。こいつ、口先ばかりで自ら命を絶つ事もできなくなっていた。


「まあ、自殺する事が勇気ではないがな。生きている事の方が余程勇気のいる選択だ」


 俺はランカに毛布を掛けてやる。別段恥ずかしい衣装という事でもないが、それでも身体の線が判る革鎧では俺が目のやり場に困るからな。

 別に他意はない。ルシルの視線が怖いとかそう言う事はないからな!


「俺に降れ、ランカ。もう俺たちを殺す事に意味はない。お前はお前のためにこそ、その命を使え」


 ランカは毛布をかき抱き、目に涙を浮かべていた。

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