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対話と自由への対価

 ランカは大火傷を負って倒れている。酸欠状態で意識も朦朧もうろうとしているのだろう。試しに呼びかけてみたが反応がない。


「ゼロ、このまま殺しちゃったら?」


 ルシルは木の杭を持ってきてランカに突き刺そうとしている。

 まあ、人の家に押し入ってきて暴れまくったんだ。それが後腐れなくていいんだけど。


「最後に言ったおじいさまというのが気になってな。次から次へと客が押し寄せてきても面倒だ。リザクールを倒せばコボルトの件は片付くと思ったんだけどなあ」

「それだけじゃ済まなかったもんね」

「ああ。このランカっていう娘も単独なら別に気にはしないんだけど、そのおじいさまっていうのが過去の話じゃなくて現在進行形で裏にいたとしたら面倒くさいよ」


 コボルトを使役していたリザクール。その仲間なのか上役なのかは知らないが、関係するヴァンパイアたち。


「そう考えるとヴァンパイアも孤高の存在と言うよりは、群れをなしている……とまでは行かないまでも、それなりの規模で集団を形成していると思ってよさそうだな」

「ヴァンパイアの町があるとか?」

「うーん、一族とかそういう感じかな。ヴァンパイアの血族がいて、分家があってくらいか。後は眷属けんぞくと言っていた連中が周りで生活を支えているとかな」

「そうね……ヴァンパイアが連れ立って来ないっていう事は、そうなのかも知れないね」


 俺は念のためランカを縛り上げて、耐水性の大きな革袋に詰め込む。呼吸はできるように顔は出しておくか。


「完全治癒とまでは行かないまでも、死なない程度に回復させてやるか……Nランクスキル発動、簡易治癒ライトヒーリング。火傷を少しだけ抑える程度かもしれないがな」


 俺が治癒のスキルを発動させると、少ししてランカが意識を取り戻した。


「わ、我は……」

「よう、目が覚めたか? また血の塊に溶けてしまっては面倒なんでな、革袋に入ってもらったが」

「屈辱だ……。このような恥辱にまみれようとは……」

「そう言うなよ、死なない程度に傷は回復してやったんだからさ」

「くっ、殺せ! 虜囚の辱めは受けんぞ!!」


 なんだか勇ましいけど、死にたければ舌を噛むなり頭を地面に叩き付けるなりすればいいものを。


「別に俺はお前がどうなろうと構わないんだがな、あのマント男、リザクールとか言う奴な。あいつをやっつけたら今度はお前が来たって事なんだよ。俺たちは平和に静かに暮らしたいだけなんだけどなあ。それを邪魔するから返り討ちに遭うんだ」

「それはリザクールから聞いているぞ。コボルトをかくまっているじゃないか。それは我らに敵対する行為だぞ」

「ふむ」


 初めはコボルトのロイヤが行き倒れていたのを助けたからなんだが。


「ゼロ、そんな事言っていたらロイヤちゃんを助けた事が悪かったみたいになっちゃうよね。それはちょっと違うと思うんだけどな」

「それはそうだ。ルシルの言う通りだよ。だいたい問答無用で仕掛けてきたのはリザクールだったからな。事の経緯はともかくとして、それならそれできちんと説明をすればよかったはずなんだ」


 俺は袋詰めされているランカに顔を近付けた。


「こうやって対話で進められる物事だってあるじゃないか」

「くっ……」


 ランカは俺から顔を背ける。

 だが表立った抵抗はしないで大人しくていた。


「なあランカとやら。俺たちが平和に暮らすためにはお前たちはどうしたいんだ? どうして欲しいんだ?」


 俺は袋の紐を緩めながらランカに問いただす。意外そうな顔を俺に向けるランカ。


「寝首をかかれては大変だが、この革袋から解放してやるくらいは考えてもいいぞ。きちんと対話ができる(・・・・・・・・・・)と言うのであれば、な」

「それは、我にお前の軍門へ降れと……」

「別段忠誠を誓えという話ではない。約定を違える事はできないからな」


 俺は革袋の口を少し広げて、ランカの上半身が見えるくらいに緩めた。


「ルシル、あれを」

「判った」


 ルシルはランカの入っている革袋に手を伸ばして、ランカの胸に手を当てる。


「SSSランクスキル大罪の清算ジャッジメント・ギルティ……」


 一瞬だがルシルの手が光り、ランカの胸に吸収された。

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