不死属性の炎
ウィブがワイバーンというか爬虫類特有の大きな口をもぐもぐさせる。
「なんと、これは、うむむ……」
「どうしたウィブ、大丈夫か?」
ウィブは大きく喉を動かしてなにかを飲み込んだ。
「ふむ、ちと試したいのだがのう……お、丁度よい暖炉があるな」
大きい身体を揺すりながら、広間の端にある暖炉へと向かっていく。
いったいなにをし始めるんだ。
「どれどれ……」
暖炉の前でウィブが身構える。ワイバーンは手がない。実際には前脚がコウモリのような飛膜で覆われ、その大きな翼となっている。
ドラゴンのように、四肢があってその上で翼を持っている訳ではなく、前脚が翼になっているという点では、明確に違う種であると言えよう。
ウィブがその翼を器用に使って、四つん這いのような形になる。
「ふぅっ!」
ウィブが一息暖炉に吹きかけると、小さいながらも炎が出てきた。
「おおっ! 儂にも炎のブレスが! 夢にまで見たブレスがのう……」
一人歓喜にむせぶウィブ。
「ど、どうしたのなん?」
コボルトのロイヤもゴブリンのチュージもなにが起きたのかが理解できないらしい。
ルシルはどこか嬉しげな笑みを浮かべていた。
「ウィブはワイバーンだ。ワイバーンはドラゴンたちと違ってブレスを吐く内臓機能を持っていないんだよ。飛ぶ事に特化したワイバーンは、逆に飛ぶ事以外の能力はかなり限定されている。前脚が翼になっている事で飛ぶには効率のいい身体なのだろうが、前脚や手を自由に使えないという問題もある」
「ふむふむ……」
「それと同じように、ワイバーンは炎や氷といったブレスを吐く事ができないんだ。元々その機能を有していないんでね」
「ドラゴンみたいに炎を吐けないのなん?」
「そう言う事だ。今までは、な」
得意気になってウィブは暖炉の中に向かって何度も何度も炎を吹きかけていた。
「炎の呪いがどう影響したのかは判らないが、ウィブは史上初めてブレスを使えたワイバーンって事になるのかな」
「へぇ、それはすごいなん!」
呪いによるものだとすれば、それがウィブにとって必ずしもいい事だけという訳にもいかないのだろうが、なんの作用か炎を吐く事ができたのは、ウィブには凄く嬉しい事なのだ。
「それでウィブ」
「なんだのう!?」
ウィブが振り向くと、漏れた炎が俺たちに飛んできた。
「うわっ、ちょっと押さえろ! 炎が漏れてるぞ!」
「おわ、済まんのう! 儂としても、ちとはしゃぎすぎてしまったかのう!」
もうウィブはノリノリだ。
「だがなウィブ、俺は温度変化無効のスキルを持っているが、お前は別に無効化を持っている訳ではない。炎の耐性はあるから活火山の火口でも活動はできただろうが、それは問題ない範囲で耐える事ができているからだ」
「ふむ? どういう事だのう」
「完全無効化ではないからな、例えば火山の溶岩に飲み込まれたら生きてはいまい」
「それはもちろんだのう。いくら儂としても溶岩の中では死んでしまうのう」
「だろう? だから炎に耐性はあると言っても、それは絶対ではない。その証拠に、ほれ口を開けてみろ」
ウィブがゆっくりと口を開ける。
「ほら見ろ、お前調子に乗りすぎだぞ」
ウィブの口の中は火で炙られてそこそこの火傷ができていた。
「へへっ、儂も確かに、少々痛みがあるかなあって思っていたのだがのう」
鱗に覆われた顔は特に赤らめるような事もなく、前脚の翼に付いている爪で器用に頭をかいたのだった。まあ、その仕草で照れているのは判るがな。