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呪いの形

 俺の推察はこうだ。

 ヴァンパイアはアンデッドの中でも高位の者と聞く。そのヴァンパイアが嫌う銀をコバルトに変えてしまう能力を持った種族がいる。


「それがコボルトだ」


 俺の説明に皆が固唾を呑んで見ていた。


「コボルトはヴァンパイアの言う通りに銀をコバルトに変換していった。そして対価としてヴァンパイアの庇護を受けていたのだろう」

「外敵から守ってもらっていた、っていう事?」

「どうだろう、そこはロイヤの方が詳しいと思うが」


 俺に促されてロイヤが恐る恐る口を開く。

 小さく、か細い声で、ゆっくりと語り出した。


「ロイヤはあまりよく判らないのなん。前の前の族長の頃からリザクールに支配されていたらしいのなん」


 ヴァンパイアは長命と聞く。コボルトからすれば何代にも渡るくらいの年数なのだろうが、それはリザクールには関係のない事なのだろう。自分が使役している部族の中身がどう変わろうが気にもしていなかったかもしれない。


「でも、先代の時にそれを嫌がったのなん。自由がなくてロイヤたちいつもお腹を空かせていたのなん。それに銀は高く売れるから、銀に触らないようにして売りに出たりもしたのなん」

「リザクールからすれば、自分の弱点である銀を消滅させたいのに、それを逆に世界へ広めてしまうコボルトたちを裏切りと捉えたのだろうな」

「ロイヤたち、木を扱うのが上手なのなん。だから木の杭を作ってリザクールをやっつけようとした戦士たちもいたのなん」

「ほう、だが今の状況を見ると……」


 俺の考え通り、ロイヤは小さくうなずく。

 歯向かったコボルトの戦士たちは返り討ちに遭ったのだろう。


「ロイヤが言う話の通りだとすると、恐らくそれでリザクールは部族ごと滅ぼそうと思ったのだろうな。そしてロイヤたちは棲み家を捨てて逃亡の旅に出た、まあそんな辺りか」


 今にも泣き出しそうなロイヤを見て具体的な話はしないように気をつけたが、事が事だけに過去のいろいろな記憶を思い出させてしまったのだろう。


「まあ今はもう大丈夫だし、ロイヤの部族も全員がやられたわけでもないだろう。ロイヤがこうして逃げ延びているんだ。他のコボルトたちもどこかで生きながらえて息を潜めているかもしれないだろう?」

「うん……」

「そうしたら次は体力の回復を待って、ロイヤの民たちを探しに……」


 俺は言葉の途中で異常に気付く。


「ルシル……その肩……」

「え? ええ……あぁっ!!」


 ルシルが自分の肩を見ると、そこに潰れたヒキガエルのような顔があった。

 その肩に貼り付いた顔が目をぎょろぎょろと動かし、偶然にも俺と視線が合ってしまう。


「ぎゃっ、ぎゃぎゃぎゃ! よくもこんな姿にまで我を追い込んだな! だがお前たちに取り憑いてよかったぞぉ! お陰で裏切り者の所へたどり着けたわい! ぎゃぎゃぎゃ!!」


 喉の潰れたようなかすれた声で顔が笑う。


「リザクール……まさかルシルに取り憑いていようとはっ!」


 油断した! ルシルの肩を気にしていたのはこの事だったのか!


「いいかルシル、そのまま動くなよ!」


 俺は立ち上がって剣を抜き払う。


「な、なにをするんですだゼロ様っ!?」


 ゴブリンプリーストのチュージが慌てて俺を押さえようとする。


「なにって、ルシルの腕を斬り落とす。奴を切り離せばそれでいい。傷は治癒でなんとでもできる!」

「そんな無茶ですだよ! ルシル様、逃げてくだせえ!」


 チュージが俺の身体にしがみついて動きを止めようとするが、その程度では俺は止められない。


「いくぞルシル」


 俺とルシルの視線が重なる。


「うん、やってゼロ」

「いい覚悟だ。すぐ済ませる」


 俺は大きく振りかぶって剣を構えた。


「いくぞ!」


 俺が勢いよく振り下ろそうとした時だ。


「だぁっ、ちょっ待てやこら! ちっくしょう!」


 ルシルの肩に貼り付いていた顔が吠える。


「こいつだったら本当に斬り落としかねないっ! こうなれば……我の身体を呪いの本体として、コボルトの娘を道連れにっ!」


 ルシルの肩からリザクールが飛び出す。粘土細工かスライムのように身体を不定形にうねらせて空中を跳ねる。


「今だっ、行けっ!」

「おうさ!」


 部屋にいながら今まで無言を貫いて小さくなっていたワイバーンのウィブが、ロイヤに飛びかかろうとしていた粘度玉みたいなリザクールを一呑みにした。


「ぐ、ぐわっ、なにを貴様っ! この我、リザクールを口中に入れようとはっ! いいだろう、まずはお前から我の呪いに、えっ、ちょ、まっ……」


 そしてくぐもった中で、焚き火に水を掛けた時のようなジュッという音を立てて、ウィブの口の中が静かになる。


「ウィブ、大丈夫か?」

「おう、問題無いのう。儂は炎には耐性を持っているからの、炎の呪いなら儂には害を与えないのう」

「そうか、助かる。俺は温度変化無効は持っているが、だからといって炎に耐性があるわけでもないからな。火山の近くでも活動ができるウィブに試してもらったんだが、上手く行ったのならよかったぞ」


 ウィブは俺が話している間に盛大なゲップを吐き出した。


「うぃー、済まんのう。つい押さえが利かなかったものでのう」

「いや、それは構わないのだが、リザクールはどうだ?」

「ふむ、儂の胃袋には奴の気配は無いのう。まだ口の中かのう……むっ!」


 ウィブの表情が一瞬曇る。口の中でなにかがあったのか!?

 俺はウィブに駆け寄って様子を見ようとした。


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