偽銀
ひとまず俺たちは屋敷の一階にある広間に集まった。高い位置にあるバルコニーからはワイバーンのウィブも屋内に入れるように作られている。だからこの広間には、俺とルシル、コボルトのロイヤとゴブリンプリーストのチュージ、そして羽を畳んでいれば余裕で広間には入れるワイバーンのウィブがいた。
「あのマント男は片付けたと思うんだが、呪いの状況はどうだろうか」
俺は気になっていたところをチュージに確認する。
チュージは神聖魔法を操りながら俺たちの状況を観察した。ロイヤにかかっていた炎の呪いはウィブ以外の全員に分散させていたのだから。
「呪いは……もう感じられねえですだ。掛けた者がおっ死んだか、呪いを維持できなくなったかしたんでしょうが、今はおいらのサーチでも引っかからねえですだよ」
「そうか。それならばよかった、一安心だな。では確かめたい事があってな、これを見てくれ」
俺は広間のテーブルにルシルが持っていた銀のナイフを置いた。
「これは俺とルシルが生活していた時に使っていた食器だ。銀でできている。これにあのマント男が触れた時、身体が泥みたいになって弾け飛んだんだ」
「それは奇妙な話ですだな。でもおいらたち神官にはアンデッドに関する知識もいくらかあんですだが、それに銀を嫌う奴がいたんですだよ」
「ほう。それって」
全員が息を飲んだ。一瞬の静寂。
「ヴァンパイア、ですだ」
やはりな。
「なあルシル、配下のアンデッドの中にはヴァンパイアはいなかったのか?」
「う~ん、アンデッド系はみんなベルゼルに任せていたから詳しくは判らないけど、ヴァンパイアはいなかったと思うな。あれって使役するのが結構大変っていう話だし」
「そうなのか?」
「うん、餌代がね」
「餌代言うなよ~」
魔王の頃のルシルはなかなかワイルドだったからな。部下の統率という事でもかなり苦心していたらしいが、それはやはり頂点に立つ者の責務だったりするのだろうか。
「それで、そのヴァンパイアがどうしたの?」
「そこだよ。ロイヤ、これを触ってみてくれ」
俺が差し出す銀のナイフ。ロイヤは上目遣いで尋ねる。
「い、いいのかなん?」
「ああ。やってみてくれ」
俺に促されるようにロイヤが銀のナイフに触れた。するとたちまちナイフが一瞬黒ずんで、また元の輝きを取り戻したかのように見える。
「え、どういう事これ……」
ルシルもチュージも驚くのは無理もない。俺も昔聞いた噂が本当だったと、今改めて確認できた訳だが。
「これは偽銀、いや、コバルトに変異させる能力だ。ルシルもさっき見たように、マント男、リザクールは銀に触れただけで泥になって弾けてしまった」
「そうだったね、あれは私もびっくりしたよ」
「俺もだ。だがそれで確信した。ロイヤ」
「はひゃいっ!」
急に呼びかけられて耳がピンと立つロイヤ。
「お前たちコボルトはリザクールに、いやヴァンパイアたちに銀を消滅させるために使われていたのではないか?」
もはや一人だけになってしまったロイヤの部族だが、それでもロイヤが長であれば今まで起こっていた事をある程度は知っているだろう。
「ヴァンパイアの命じるままに銀をコバルトへ変異させていた、だがそれを拒否し返り討ちに遭った」
ロイヤは唇をかみながら俺の話を聞いていた。