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魔物を捕らえた戦士

 俺は子供とゴブリンを連れて兵士の中を通る。広い平原にいくつもの天幕が建てられていて、兵士たちには煮炊きをするかまども用意されていた。

 俺は夜通し駆けていたので疲労感はあるが、それよりも王国の兵士たちが多数周りにいるこの環境の方が緊張する。


「お前か、ゴブリンを捕らえたという戦士は」


 警護にあたっている兵士が俺に問いかける。

 この先には王国の重要人物がいるようで、他よりも一回り大きく豪奢な飾りの付いた天幕が設置されていた。


「ああ。標準語をしゃべるゴブリンで、どうやらゴブリンプリーストらしくてな。珍しいから殺さずに連れてきた。確か今この軍団にはムサボール王国の重鎮がいるっていうんでね、珍獣を献上して褒美をもらおうという訳だ」

「ほほうそれは殊勝な心がけだな。今やムサボール王国は版図を広げて全戦全勝、侵略、いや周辺諸国の解放を進めている所だ」

「解放……」

「ああ。この部隊を率いるのはムサボール三世陛下の実の弟君、ゴーヨック公爵閣下だからな。公爵様に気に入られれば王国での出世も期待できるというものだ。お前、うまい事やったな!」


 兵士は俺の背中を何度も叩く。何がそんなに面白いのか。


「そういえばこの陣にはゴブリン以外にも珍しい亜人種がいるらしいな」

「ほう、お前もよく知っているな」

「王国軍の強さは周辺に広まっているからな、噂話には事欠かんよ」

「なるほど、お前は見込みがありそうだから教えるが……」


 兵士が俺に耳打ちする。


「この陣にはジャイアントが捕らえられているんだよ」

「ほう」

「それも三体だぞ! 凄いだろう。最近捕まえたとかでな、ジャイアントのくせに簡単に捕まったとさ」


 ヒルジャイアントたちの事と見てよさそうだ。


「きっと王国軍が強かったからだろう。ジャイアントとは凄いな」

「だろう?」


 自分の手柄でもないのに兵士が自慢気に笑う。


「俺も是非見てみたいな。ジャイアントなんておとぎ話の中の生き物かと思っていたからな」

「はっはっは、俺もそうだよ。この目で見るまではな」


 兵士はまた俺の背中を叩く。


「公爵閣下のお目通りまで少し時間がかかるから見てきたらどうだ? 今は向こうにはりつけになっているからさ」


 その方向には大きく十字に組まれた木の枠が三つあって、そこへ人の姿が見えた。

 距離との縮尺が間違っていなければ、その人の姿はヒルジャイアントたちだろう。


「ああ少しだけ時間をもらうよ。ジャイアントには興味があるんでね」


 俺は連れてきた子供にゴブリンを捕らえている縄を手渡すと、ジャイアントが捕らえられている十字の木枠に近付く。

 ジャイアントは木枠に鉄の鎖でくくりつけられていて自由が奪われた状態だった。

 目立った傷は無いがいくつか打撲の跡が見える。


「おい人間!」


 ジャイアントが俺を見て話しかけてきた。


「あっ!」


 急にジャイアントが小声になる。


「ゼロの親方……」

「話さなくていい。状況は把握している。いいか俺が言う事を聞いてくれ」


 俺は周りで誰も気が付かないところで鎖をいくつかつかむと鎖の形が歪んだ。


「今、鎖に細工をしたからお前たちなら引き千切る事ができるだろう。それに今まで人間に手を出さないでくれたのだな。ありがとう」


 俺の言葉にドッシュの目に涙が溜まる。


「俺が天幕の中で騒ぎを起こしたらお前たちは拘束を外して陣内で暴れ回るのだ。お前たちが生き延びるためには王国兵士たちの多少の犠牲は構わん」

「へい、判りやした親方」

「ニンゲン、ウマイ……」


 何か久し振りに聞く台詞に俺の頬が少し緩む。

 俺が天幕の前に戻ってくると、兵士が天幕の中の女性と何やら話をしていた。


「ジャイアント、凄かったぞ」

「そうだろうそうだろう。よし、待たせたな。それではゴーヨック公爵閣下へのお目通りが許されたので、天幕に入る事を許可しよう」


 そう言うと兵士は少しだけ天幕の入り口を開けた。

 俺たちは中の女性に促されて子供とゴブリンを連れて天幕の中に入る。

 天幕の中には椅子に座った大柄の男性とその後ろに立つ屈強な男、それと周りに控えている女性たち。


「ほうほう、それがしゃべるゴブリンかえ?」


 大きな身体を大きな椅子に預け、反り返った姿勢で俺を見下している。着るものは宝石やらレースやらで装飾されていたか不揃いな衣装でお世辞にも綺麗とは言えない。


「ふぉっふぉっふぉ、傭兵戦士ゼンと言ったな?」

「はい、お目通りをお許しいただきありがとうございます。この度お持ちしたのは標準語を話すゴブリンプリーストにございます」

「おほ、ゴブリンプリーストとな? それは面白そうであるな」


 ゴーヨックは周りにいた女性たちに指示をする。


「よし、お前たちは下がれ」

「はい」

「かしこまりました」


 屈強な男はそのまま椅子の後ろで微動だにしない。


「どうれ、一つやってみせよ」


 興味本位でこちらの思惑に乗ってくれて助かる。これがもっと計算高い男だったら慎重になっていたかもしれない。


「よし、やって見せろ」


 俺がゴブリンに指示を送る。


「い、いいだろう。今から気持ちいい魔法をかけてやる」


 後ろ手に縄で縛られていたゴブリンプリーストの拘束を解く。両手が自由になったゴブリンはゴーヨックに精神安定の神聖魔法をかける。


「おほう、これは気持ちが安らぐ。戦場のまっただ中で明日にも戦端が開かれようとするこの今の時間で、こんなにも心が穏やかになるものなのか。こんな希少ゴブリンを捕らえるとは、ゼンとやらお前もなかなかどうして大したものよのう」


 ゴーヨックがしゃべる度に大きくたるんだ二重あごが揺れた。

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